55 おめかししましょう
「マスターも一緒に商会の人に会いません?」
サラが突然提案してきた。しかしあまり気が乗らないというか、城から出たいという気分にならないんだよなあ。引きこもりか。
「でしたら、マスターがここに居ながらにして操作できる体を用意しましょう」
アリシアがまた唐突な提案をしてくる。
「幸い、街にいくらでも使える体がありますから」
なるほどな。しかし俺はヒカルやホタルとちがって死体に乗り移るような器用な真似はできないぞ。それに、乗り移って移動するなら結局俺は外に出なきゃいけないじゃないか。
「いえ、マスターはここに居ていただいてですね、感覚を魔力信号にして遠隔で……」
色々説明を受けたが難しいことはよくわからない。なにせ俺は雰囲気で魔術を使っている。しかしいくつかわかったことを合わせると、VRのように俺の骨の体はここにいながら、離れたところの体が見たものを見、聞いたものを聞き、さらにそこそこ自由に動けるらしい。なにそれすごい。多少の加工は必要になるがそれはアリシアにとっては結構簡単なことらしい。
「せっかくですので……ああ、そうだ。ちょっと」
サラが皆を連れてどこかの部屋に行ってしまった。それにしても、記憶があるていど戻ったおかげで、苦手だった魔術の概念がある程度は前世知識で喩えて理解できるようになった気がする。やはり知識は大事だな。
◆◆◆
「マスターにせっかく着ていただくのですから、適当な体ではいやですわ」
マスターに隠れてみんなでマスターの操作する肉体を選び始めた。皆に様々な男の子、あるいは青年のイメージが共有される。どこの世でも、たとえ生者でなくとも、女性陣のウインドウショッピングというのはそれなりににぎやかである。
「こっちの子は」
「若すぎない?」
「筋肉が少なくないですか?」
口々に好みを主張してなかなか結論が出ない。しかしあまりマスターを待たせるのもよくないなということで徐々に落としどころを探り始める。
「筋肉はいらないかなー」
「あまりムキムキしたのはちょっと……」
「マスターのイメージではないですね」
筋肉は数の暴力で除外され、髪の色や肌艶、目の色、徐々に絞り込まれていった。最終的に一人に絞り込まれて、皆がそれなりに納得できる決着を見る。
「じゃあ、この子でいいわね。アシュ?イライザちゃん?」
「どっちでもここまで歩かせるぐらいのことはできるわよ」
「連れてきたらアリシアさん、お願いしますね」
「まかせなさい」




