53 バーデン辺境伯領落ちる
「ということでですね、かくかくしかじか」
アシュとイライザが彼らの計画についてマスターに説明していた。
「なるほど。俺はかまわないけど、サラはどうだ?」
いきなり家族を含め自分の家の治める街をまるっと全滅させて傀儡にしようという話に対して、何か思うところがあるんじゃないかと思って話を振ってみたのだが
「マスターがかまわないならわたくしも気にしませんわ」
案外あっさりだった。感情が抜け落ちているわけではないが、特に俺が直接手を加えた三人は特に、俺至上主義的な傾向が強い。アリシアのは手を加えたというより事故のような気もするけど。そのアリシアも興味津々といった風で二人の方を見ている。
「マスター、ちょっと力をお借りします」
イライザがそういって俺の手をとる。いつも通りやわらかい手。つい骨の指で手のひらを撫でてしまう。楽しい。
「あの、マスター」
「ああ、ごめんごめん」
いたずらが過ぎただろうか。ふと見まわすと、ミイラのアリシアと悪霊のヒカル、ホタルが微妙な顔をしている。いや、みんな触り心地が違ってみんないいんだよ?二人はまだあまり触れてないけど。
「私の目の魔力を使って、マスターの魔力の流れを作ります」
撫でるのをやめた俺の手からゆるゆると魔力がイライザの手のひらに流れ込む。イライザの眼が光り、何層にも奥行きを重ねた魔法陣が瞳の中に描かれる。イライザの目が潤む。
「ん……ふ……」
ちょっと色気が過剰なんじゃないかと思うような吐息がイライザの唇から漏れた。
「ちょっと目の毒かもしれないわね……」
アシュの声も妙に艶っぽい。特にそういう刺激をしているわけではないが、俺の魔力を通すというのはそれだけで気持ちいいものなのかもしれない。そして俺も気持ちいい。ウィンーウィンというやつだ。
「今更だけど、町の人を動かしている間イライザは何もできないのか?」
「大丈夫よ。イライザちゃんの今は使ってない演算能力を利用するだけだから。ただ、魔力線でつながってる必要があるから今はアシュの中か、せいぜい町の中くらいまでしか移動できないわね」
「イライザちゃん自身が操作してるのでないなら、その機能はあとでコピーすることもできると思います」
アシュの説明をアリシアが補足してくれた。なるほど本当に単なるコンピュータとしてイライザの一部を使うだけなんだな。
「イライザちゃん、いくよっ」
「んんっ!あああああぁぁぁぁぁ!!」
イライザの中でなにかが弾けた。のけぞり痙攣する姿は妙にエロチックで、しかしその体を通して放たれた魔力は確実に街の人々の命を奪っていく。老若男女も身分も関係なく、平等に。そしてその生命力も、俺の力と溶け合ってイライザの瞳に収まっていく。
細かな痙攣を続けるイライザがあまりに魅力的に見えて、俺はイライザを膝に乗せた。




