51 アシュとイライザ
「イライザちゃんちょっと手伝ってほしいんだけどー」
「何をでしょうか?」
「んー、いいことー」
イライザがちょっとこちらを見る。まあいいんじゃないかな。基本的にはみんな好きにしてるのがいいと思うし。
「話を聞いて、イライザが嫌だったら断ったらいいぞ」
「はい、マスター」
イライザの魔術回路群はいわばいくつかのモジュールをつないだコンピューターのようなものだ。よくこの設計にたどり着いたものだ、と今の俺は少し感心している。そしてアシュはイライザと魔力線をつないで何かさせたいらしい。さて、この二人が組んだら何ができるのか、何をしようとしてるのか。ちょっと楽しみにしている俺がいた。
◆◆◆
「商会の人が来る前に、街をつくりかえようかなって」
「この城ではなく。街をですか?」
「あまり中に知らない人入れたくないのよね……ほら、長年ひきこもってたわけじゃない?どうも気後れするというか……」
「なるほど、人見知りというものですね。理解します」
「そ、そうね。なんかダメ人間みたいな言われ方だけど……」
「ひきこもりも基本的には良い意味では使われないと思いますが」
「むう……イライザちゃんのくせに生意気だ……」
イライザの演算能力、本来なら人格をエミュレートするはずだった領域は現在マスターの力で生まれた自我のおかげで丸ごと空いている。アシュはそこに目を付けていた。
「こんな感じでさ……ごにょごにょ」
「なるほどではここを……」
街を作り替えると言っても別にダンジョンにしようとか考えているわけではない。ただ、客を迎え入れる場として、いわばロールプレイングゲームの町のように、入ってきた人に対して決まった反応のできる傀儡を配置した、形だけの町を作ろうと考えていた。
「それにしてもイライザちゃんの記録水晶すごいわねぇ」
「色々悪いことをして手に入れたものをふんだんに使ってたようですから」
「おかげで色々試せるんだもの、イライザちゃんをつくった人にも感謝だね」
「わたしを作ってくださったのはマスターだと思っています。その人は材料を集めてとりあえずつないだだけですね……」
割と辛辣だが実際起動すらさせられなかったので、その頃の記憶もあるイライザとしてはどうしても、その男が“作った”という表現には違和感がある。少なくとも彼女の自我はその男が作ったわけではないし、あの時点での体を起動させたのもアリシアであってその男ではない。
ちなみに、アシュの中に知らない人を入れずに商会の人間に会うという目的であれば、バーデン伯とその周囲だけ傀儡にしてもなんとかなりそうなものだが、盛り上がっている彼女たちがそれに気づくことはなかった。




