50 買い物について考える
中途半端にとはいえ色々思い出した俺は、逆にこの世界のことを何も知らないことに気づいた。本が欲しいな。この辺の地図もあれば欲しい。できれば世界地図も。あるかな?
「でしたら、商会の人間を呼べばいいのですわ」
あれ以来喋りにぎこちなさの減ったサラが言った。体の動きは相変わらず固いがキョンシーだから仕方がない。口からのぞく牙も顔色の悪さも。しかし、店に行くのではなく呼ぶのか。そういうものなのかな?
「お父様のところにはよく来てましたわ」
なるほどさすが貴族。わざわざ買い物に行ったりはしないらしい。
「あ、でもここに人が来たら帰れないのでしたわ」
自分がそれで帰れなくなって死んだというのに、うっかりにもほどがある。間抜けかわいいってやつだな。
「マスターが帰す気になれば帰せるわよ」
アシュの声。あいかわらずどこから声が出てるのかわからない。
「そうなのか?」
初耳だ。アリシアはよく出かけてるしサラも一度アリシアとあいさつに行っていたので、一度死ねば出入りできるとかそういう制約かと思ってた。イライザとヒカル、ホタルはまだ出たことがないしな。
「あの結界は外からこの城を封印しているのではなくて?」
イライザが疑問を口にする。俺もそう思ってたし世間の認識もそうらしい。基本的には外から抑え込んでいるので、中には入れて外には出られないのだろうと。
「違うわよー。あれはアシュケローン城多層防御結界。本気を出せばもっと枚数ふやせるわよ。地獄の釜からの魔力は無尽蔵だし」
なんだ地獄の釜って。とりあえず説明を整理すると、地獄の釜というのは城の下層、だいたい玉座の真下あたりに埋まっていて、地獄につながってるとされている……仕組みはよくわからないが要するに無限の魔力源として使える何からしい。本当に無限かどうかはわからないそうだが。で、それは俺につながってて、俺自身無限の魔力を使えるらしい。ご都合主義なのか、それともその地獄の釜とやらにつながったこの骨の体が俺の魂を引き寄せたのかは知らないが、なんにしても良いことだ。
「あ、でも魔力はともかく金がないな」
「とりあえず話すだけ話してみればいいのですわ。商人が何を求めるかなんて私たちにはわかりませんもの」
いや、商人が求めるのは金だろう?と思ったのだが世の中それだけではないらしい。ただ、だからといってとりあえず来てくれと言って来てくれるものだろうか?
「バーデン家の名前でわたくしが手紙を書けば、来ない理由はないはずですわ」
いいのかそれは……なんかまた揉めそうな予感しかしないんだが。




