05 手遊び
魔力、というのだろうか。俺は自分の体に流れる何かの力に意識を向けた。少し前まで俺の体にはなかったもの。不足していたもの。それが今はこの骨の体の内側に満ちている。心なしか骨の艶も良くなった気がするし、ボロ布も何かしなやかさを得たような気がする。いや、多分どちらも気のせいだ。
「それにしても、暇だなあ」
城の中は適当に歩き回ったものの、特にやることもない俺は玉座(だったかもしれないボロ椅子をそう呼ぶことにした)に深く腰掛けて呟く。本当にやることがないんだよな。城の中に何もないし。
「そういえばこれ……」
自分の体の中にある魔力と思しき何か。今はそれぐらいしか興味を引くものがない、という切実な事情もあり、俺はそれについてもう少し意識してみることにした。少し傾けるイメージ。自分の中に偏りを作る。手遊びの延長のような感覚で、まずは右手にそれが流れていくようにする。暑いとか冷たいとか重いとか、そういった感覚に近いようで遠い何かが、確かにそこに集まるのを感じる。それと同時に今度ははっきりと、手の骨の艶が良くなったと感じる。見た目は変わってないのだが。そもそも俺が見えていると思っているものって、どのくらい人の視界に近いんだろうな。眼球はないんだし、人と全く同じ仕組みにはならないだろうに。まあいいか、実際ものは見えているのだから困りはしない。
「案外簡単に動かせるな」
特に意味もなく声に出してみた。せっかくなのでこれをもう少し動かしてみよう。右手側に傾けたそれを、今度は左手側に傾ける。実際に身体を傾けているわけではないが、何かの力が左側に流れていくように傾きをイメージする。右手にたまっていたものが、徐々に肘のあたりを通り、肩、首、左肩、左肘と伝って左手に溜まる。のんびりとした流れはまるでシロップか何かのようだ。そして左手の骨の艶もいい感じになる。
「通っただけの腕の骨もちょっといい感じになったかな?」
これは気のせいかもしれない。せっかくなのでこの塊のようなエネルギーを全身に通してみよう。ちょっとぐらい見た目がかっこよくなるかもしれない。
◆◆◆
「外に出してはいけません!」
神官長付の補佐官が拝廊に駆けつける。少女だったものは正面から神殿を出ていこうとしていた。
「せめて神殿の中で打ち倒すのです!」
「しかし、彼女は」
つい反駁する下級神官。彼らは上級職の服を着た何かに武器を向けることをついためらってしまう。まして、顔見知りの少女であった何かである。
「仮に本人でも、そうでなくても。ああなったものが元に戻ることはありません。知っているでしょう」