44 勇者召喚
「マスター、さらにわかったことがあります」
俺が直接見たり思い出したりしたもの以外に、イライザがとってくれたログからも色々調べられるらしい。すごいな。
「マスターがこちらに来た理由、それがうまくいかなかった理由がわかりました」
なんでも、勇者召喚というのがあるらしい。アリシアも直接見たことはないそうだけど。そういえば黒王と戦ったのも勇者だっけ。
「はい。基本的には、どこか遠くから人を一人連れてくる儀式ですね」
「それって転生とか、魂だけ呼び出すとかそういう?」
「いいえ、マスター。マスターのケースは非常に珍しいというか、運が悪いというか、その……」
「……なにがあったの?」
アリシアが何とも言えない顔をしている。怒っているのか、困ってるのか、笑いをこらえているのか、その全部なのか。
「本来マスターは、どこか遠く……マスターの記憶からすると、私たちの知っている範囲よりずっと遠く、もしかしたら理屈の異なる世界から、そのままこちらに呼び出されるはずでした。勇者というのはそうして呼び出されて、そのあと力を引き出されて、普通の人よりずっと強い力を得ます」
ふむふむ。でも俺はそうならなかった。
「そうならなかった理由なのですが……非常に間の悪いことに、マスターはその召喚のタイミングで、大きな乗り物にぶつかりました」
「はい?」
「銀色の箱のついた大きな乗り物です。マスターの体は大変なことになり、魂はそこから抜け出そうとしたまさにその時、召喚は成立します」
「なんと?」
「で、マスターはうまくその世界の壁のようなものを抜けられず、黒王の器であったその体と妙な共鳴をし、ここ、黒王の棺の上空あたりにすぽーんと現れます」
「……うん」
「で、マスターの体はそのままこう、森の中へずばーん、と落下、魂は壁を越えた衝撃できれいに分離し、その体に吸い寄せられます」
「……」
「魂が新たな器を得た、という意味では、非常にレアですが、マスターのケースに限っては転生と呼んでも差し支えないかと思います」
「……ちなみにその、俺の体は……?」
「……非常に申し上げにくいのですが、その、乗り物にぶつかった衝撃で大変なことになっていた上に、森に落下しましたから……」
「……なるほど、あまり想像したくないな」
トラックに轢かれて転生かあ……思ったより普通だったというべきなんだろうか。それにしても俺の体……かわいそうに……拾ってやりたいけど森の中じゃあ見つからないだろうし、日も経ってるからさすがに森の動物や魔物に食われてるだろうなあ……
「体はまあいいや。この体で別に困ってないしな!」




