40 城の意思
マスターの意識は今この世界にない。マスター自身の力で作り出した別の世界にいるから。サラちゃんはマスターの記憶を開くきっかけでもあるけれども、ここに戻ってくるための命綱でもある。私やイライザちゃんも魔力線で繋がってはいるけれども、マスターの記憶世界への干渉力は持ち合わせていない。
「ホタルちゃんもこの命綱を伝ってマスターのところに行ってもらいます。なので一度ここから消えます」
「え。消えるって」
ヒカルちゃんがあわてる。そうね。驚くわね。
「いなくなる、ということよ。マスターが作った世界に入ってしまうから。あなたたちは体を持たないので、キレイにこちらから消えることができるわ」
「そんなこと言って私たちを消してしまうんじゃ」
「あなたたちを消すだけのためにそんな回りくどいことするはずないでしょう」
「ヒカル、大丈夫だから」
ホタルちゃんのほうが賢いわね。まあ、来たばかりだし仕方ないけど。でもヒカルちゃんのほうが“悪霊”としての力は強そうなのよね。
「マスターがいなくなったことで色々起きるから、ヒカルちゃんにはこっちを手伝ってほしいのよ」
「まあ……できることなら」
ホタルちゃんにまでたしなめられた成果、ちょっとしょんぼりしてるヒカルちゃん。
「大丈夫、荒事はヒカルちゃんのほうが得意でしょう?」
実は回想回廊とのつながりを維持しながらそれとは別に、ちょっとした攻撃を打ち消し続けている。正直面倒なのでそろそろ誰かに変わってもらいたい。
「まずホタルちゃんを送るわ」
その前に目の前に事を片付けましょうか。イライザちゃんから魔力をもらって、ホタルちゃんをマスターのところに。これ自体はそんなに難しくない。さて。うるさいから声も打ち消してたけど、まずはそれを解除。
「ああもうやっと喋れる!もう!もうもうもうもう!あの人をどこにやったのよー!」
ほら。ここに来てからずっといるないるなとは思ってたんだけど。
「え、誰?」
「たぶん、この城そのもの、かな」
「そうよ!もう!なんなのよ!別にあの人といちゃこらしてる分には好きにすればいいわよ!見せてもらってるわよ!でもあの人消しちゃうってどういうことなのよ!」
魔力も打ち消すのをやめた。結構な力が叩きつけられる。でも、うん、ヒカルちゃんも自力で対抗できそうね。
「じゃあヒカルちゃん、お任せするわね。本体見つけておとなしくさせてきてくれる?」
「本気?……だよねきっと」
「もちろんよ」
言い切るとヒカルちゃんから戸惑ってる気配が消えた。任せられそうでほっとする。マスターがいなくなったことで起きる問題はこれだけじゃない。でも。
「せっかくマスターが相談してくれたんだもの、頑張らなくちゃ」




