04 世界の危機
「あちゃー」
何かを吸いすぎた自覚はある。割とかわいい子だったのに骨と皮になってしまった。もったいない、と思う一方で、友達が増えたような、仲間が増えたような、ちょっとした嬉しさがある。なにせついさっき何もない城に一人ぼっちで目覚めたところだ。しかも骨しかない身体にぼろ布がまとわりついているだけの格好で。
「こっちへ来るのかな?」
そうだといいなと思う。ただ、それは単なる願望でしかない。魔術的に何らかのつながりはできているものの、さほど太くないそれは意思や感情を伝えられるようなものではないこちらから呼びかけることもできないし、向こうから何かの意思を伝えることもない。なぜかそういうことはちょっとわかる。
「それとも……街に向かう?」
俺はさっきまで特に飢えている自覚がなかった。彼女はどうなのだろう。何を求めて部屋を出たのだろう。つながっている俺か、失った生命力を人から補うのか。それとも、全く別の何かか。
「俺だったらいいな」
◆◆◆
「やはり外に出ようとしているね」
神官長が呟く。上級神官の一部には魔力の流れを追わせている。残りは結界の強化と直接足止めを行う二班に分けた。本当はこのへんの指示を直接自分が出さなくても良くなるように色々教えてきたつもりだったのだが、さすがにこうも皆が浮足立つと自分が直接指示せざるを得ない。
「大まかな向きは判るようなのですが……」
神官長付の補佐官が解析班の報告を持ってきた。しかし結果は芳しくないようだ。どこかに繋がっていることはわかる。たぶん繋がった魔力の道を通して、生命力を全て奪われてしまったのだろう。ああなってしまっては元に戻ることもない。それはわかっていた。しかしせめて術者の位置を把握しなければ。神殿の中に道をつないでのアンデッド化など聞いたこともない。そもそも遠隔で生者をアンデッドに変えてしまうような死霊術というだけでも途方もない話に思える。ただ、事実としてそれを可能にする敵がどこかにいる。彼女を止めるだけでなく、敵の所在を突き止め、打倒しなければ神殿が、のみならず場合によっては国が、世界が滅びかねない。
「世界の危機、だなぁ……」
実感は伴わないが、対処しないわけにも行かない。気を引き締める神官長だった。