39 記憶回廊
「ところで相談なんだけど」
「なんでしょうマスター」
あらためてアリシアに向き直す。サラには数歩後ろに下がってもらった。
「俺がここに座って目を覚ますより前の記憶なんだけど、うまく引き出す方法はないかな」
「記憶ですか?」
「前に見てもらったみたいな夢以外にも、ときどき自分でもよくわからない言葉やイメージが出てくることがあるんだよね」
「でしたら…イライザちゃん」
アリシアがイライザを手招きする。
「ちょっと記憶水晶の力を借りるわね……マスター、私たちがマスターの記憶を覗いても問題ないでしょうか?」
「いいんじゃないかな?どうせ自分で思い出せるものでもなさそうだし」
何が始まるんだろう、という目でヒカルとホタルはこちらを見ている。サラは相変わらずの目をしている……もう少し調整してあげないと彼女だけ自我がはっきりしてなくて勿体ないな。後で考えよう。
「では少しずつ遡ってみていきますね。見えない部分についてもイライザちゃんの記憶水晶に記録していくので後で確認しましょう」
イライザは見た目は単なる死体の継ぎはぎだが、魔術的に見れば補助魔法回路の塊のようなものだ。そしてそれを支える潤沢な魔力源もあれば、記憶や知識を司る記録装置としての記憶水晶もかなり余裕をもって設計されている。実装技術が低かったせいでその性能が生かされなかったというか起動すらしなかったらしいのだけど、素材としては素晴らしかった。その機能の一部を借りてアリシアが新たに術式を組み上げていく。いつも思うけどアリシアはすごいなあ。
「あ、サラちゃんもこっちへ。マスターが思い出した内容が一番詰まってるのあなただから」
その声に応えてサラがぴょんぴょんと前に出る。この動きはかわいいんだけど不便だよね。
「ではマスター、サラちゃんの方を見て……」
サラの顔を見る。視界の隅に見えるイライザの目が光り始める。
◆◆◆
「ちょっとマスターだけだと不安よね……ヒカルちゃんかホタルちゃんの手も借りようかしら」
「手を貸すって……何を」
「私たちそういう術とか魔法とか全然わからないんですが」
「術は私が何とかするから、マスターの意識についていってもらえるかしら」
「ついていく?」
マスターの意識はすでにマスター自身の記憶で構成された世界に沈んでいった。問題はないはず……なのだけど、念のため誰か付き添いがいたほうがいい。
「マスターの夢の世界みたいなところで、マスターといっしょに行動してもらいたい、と言えばいいかしらね」
「夢の世界ですか?」
ホタルの方が強く反応した。興味がある用だ。
「細かく言えば違うのだけど、夢みたいなものね」
回想回廊。今マスターはいろいろなものを目にしながらそこを歩いているはず。
「行ってみたいです。マスターと一緒に」




