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死霊王に俺はなる!  作者: 城乃山茸士
死霊王の目覚め
37/142

37 カルドの闇

 地下の霊安室に安置された、武装神官たちの遺体。それぞれの頭の近くには油皿と灯芯だけのシンプルな灯明がともされている。遺体の損壊はひどかったがなんとか人型に見られる形に整えられ、並べられ、布をかけられている。一見しただけではその下がどれほどひどい状態かはわからない。


「原型が残ってて良かったわ」


 そう言いながらフィオナは遺体の間を歩く。磨き抜かれた石材の床に映る彼女の姿は、あかりが揺らぐせいか少し本人の動きとズレているようにも見える。


「地上は神の領域。日の光は神々に属するもの」


 そう口にした彼女に対し、床に映る彼女は口を開いていない。


「では地下は?」


 今度は床に映る姿だけが口を開いた。


「私は何も見ていない。私には何も聞こえない。あなたに三千五百九十三秒、全権を委譲します」


 実体のフィオナが懐から宝飾の施された短剣を取り出し床に近づけた。宝剣は、何も持っていなかった鏡像のフィオナの手に渡り、実体を失った。鏡像のフィオナだけがにやりと笑う。


「意外と時間くれるのね。じゃああとは“左向き”に任せなさい」


 その声を背に受けて、フィオナは霊安室の扉を閉めた。


◆◆◆


「本気であいつらに任せたんですか?」


 扉の外で待機していたフィオナの側近が小声で聞く。


「見えない痕跡を追うのも、遺体の過去を覗くのも、私たち“右向き”にはできないもの。仕方ないわ」

「確かに我々の術では調べられないことも数多くありますが、しかし……」


 石造りの階段をのぼりながら二人は話し続ける。


「それに……この匂い、我々には少々……その……」

「言葉を選ばなくてもいいわ。私だって不快だもの。服は全部洗濯してもらうわ。後で宝剣も洗わなきゃね」


 カルドの国教会がその地位を認めさせ神殿組織に帰属するにあたり表向き切り捨てたもの。旧来の信仰やそれに基づく方術のうち、特に神殿の信仰と相いれないとされたもの。それらを彼らは文字通り地下に残した。それは彼らが彼らの土地に住む限り完全には切り捨てられないもの。悪霊を生む土地には悪霊に対抗する術が必要なのだ。


「まあでも、一時間もあれば、なんとかしてくれるでしょう」


 そしてフィオナのほかに、地下の彼らのことを正しく理解している者は地上にはいない。筆頭祭司を継いだ者だけが知らされるのだ。勿論“全権を委譲”した以上、地下の彼女は必要とあれば表のフィオナの動かせるすべてを動かすことができる。とはいえ、フィオナは地下の彼女がそのようなものを必要としていないことをよく知っていた。



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