35 呪符の便利な使い方
生きた人間から生気と魔力を吸うのはやめておきたい。うかつに繋がるのも避けたい。アリシアは自分からつながってきたので仕方がないしかわいいので良い。しかしあまりミイラが増えまくるのもどうかと思うし、あの時のような飢えも今はない。アリシアとイライザ相手に抱き合いまさぐり合いながら魔力を交換しているだけで飢えが満たされ快感が得られるのだから、
「うわぁ……すごい」
「なんかこう……大胆……」
ヒカルとホタルが目を大きくしている。向こうが透けて見える二人だが、その輪郭ははっきりしていて
「あなたたちも混ざる?」
「え、ええと……」
「あはは……」
曖昧に返事を返す。だが興味はあるようだ。俺も興味がある。実体のない幽霊って抱けるのかな。あと彼女たちの向こうに透けて見えるサラ。ああそうか。
「サラ、ヒカル、ホタル。おいで。」
「え、その、ええと」
ホタルがもじもじしているうちに、その姿を突き抜けてサラが跳ねてきた。うんうん、素直でよろしい。額の札を取ってあげると、アリシアとイライザの二人をこじあけ俺に強くしがみついてくる。この子はとにかく単純に力が強い。
「サラちゃんずるい!」
「マスター…おいしい……」
鎖骨にかじりついてくるサラ。犬か。俺はまず指先に力を集めて、サラの額にその指をあてる。サラの重さを感じなくなる。そのままそっと肩から離し、俺の顔の前にサラの顔を持ってくる。整った顔してるなあ。そうおもいながら口づけする。両脇からアリシアとイライザが俺とサラを撫でまわしまさぐってくる。しっかり魔力を循環させてくるあたり、二人ともよくわかってる。俺はその快感に身をゆだねながらふと、舌が欲しいなと思った。しかしこの骨の体にそんなものはない……そうだ。昔読んだ本のなかに、髑髏にしゃべらせるために呪符を舌の代わりに仕込む話があった。あれだ。昔っていつだ……今はそんなことはいいや。ちょっとだけサラに離れてもらうと、さっきはがした札を人差し指と中指の間に挟む。うん、いけそうだ。他の札でもいいけど、これが今のサラ相手には一番なじむだろう。口を開け、指で挟んだ呪符を自分の口の奥につっこむ。まるで吐こうとしてるみたいなポーズだが、もちろんそうじゃない。だいたい吐くものなんかないし、そういう構造もしてない。よし。まるで自分の舌のように、自由に動くぞ。もちろんこれは話すためじゃない。
「サラ」
名前を呼ぶだけで意図が伝わる。彼女の唇が俺の口に押し付けられる。そして俺の“舌”がその唇をこじあけ、サラの口の中に入っていった。




