34 脅威の解釈
悪霊、というのはよくわからないけどとりあえず肉体が死んでも意識が残ってる状態を幽霊、それが力を得て人を殺せば悪霊、という感じらしい。
「まあでも殺されて幽霊になって、仕返しできる力があったらそりゃ殺すよねえ」
「でしょー。だいたい好き放題遊んで終わったら殺すってどうなのよ」
「そういう問題じゃないとおもうの」
「いやでもそういう問題も結構大きいんじゃないかなー。殺されなければ色々できたと思うじゃない?って骨だし記憶ないし自分が何なのかもわからない俺がいうのも変だけど」
「死にたいと思ったけど死んでもこんな風に意識が残ると思ってなかったし」
「でもそのおかげでぶっ殺せたじゃないのー」
にぎやかである。そして二人は顔こそそっくりだが結構性格は違うようだ。アリシアが術を解いたときは大丈夫かなと思ったが、なんだかんだで割とちゃんと話は盛り上がっている。たぶん。
◆◆◆
二人を連れてくる前にイライザが説明してくれたことを思い出す。
「マスターは存在自体が魅了の魔法のようなものなので」
アンデッドに対して俺の魔力というのは強烈にそういう効果を持つらしい。あとアンデッドとしての存在の強化とかそういうよくわからないことも説明してくれたのだがちょっとピンとこなかった。あと死霊王の座とかについてもイライザは一生懸命話してくれた……のだが、ごめん、その辺の分野は頭に入らないというか耳から耳につい抜けて行ってしまうというか……なんとなくわかったのは、死霊王というカタチをなぞるためにアリシアは俺の周囲に何人かの種類の異なるアンデッドの女の子を侍らせようと企んでいるらしい。魔術の一要素として、そういう構造を似せることでオリジナルに近い存在として意味を補強する、みたいなのがある……らしい……っぽい?
「……はい、だいたいそれで大丈夫です……あとはアリシアさんがやってくれますから……マスターはマスターですし」
イライザの色の違う二つの目が、それぞれ悲しさと諦めを伝えてきた。つらい。
◆◆◆
「黒王ではないのだな」
「少なくともあのミイラは黒王を“あのようなもの”と言っていました。一緒にしないでほしい、と」
「しかしそれは言い換えれば、黒王どころでない脅威なのではないか?」
「今のところ何とも……確かに、ああはならない、という意味なのか、あの程度では済まない、という意味なのか……もう少し何か手掛かりがあればよいのですが」
神殿のアンデッド騒動は黒王復活疑惑へと話が大きくなり、国としても専属の調査チームを編成するに至った。その調査本部の本部長という肩書を持つ男が、今馬車に揺られて辺境伯領から王都に向かっているウトバム・ユハシバムである。馬車に設置された、遠くに声を送る水晶玉の力で上司と今回の件について話をしながら報告をまとめようとしていたのだが、多少自分のうかつさに凹んでいるところだ。実は上司に話すまで、黒王以上の脅威である可能性を全く考えていなかったのだ。黒王ではないと聞いて安堵してしまっていた。
「手掛かりといえば……カルドに渡った例の神官長達が、現地神官部隊もろとも全滅したそうですよ」




