33 カルド国教会
アリシアなりの優しさなのか、ちょっとした皮肉なのかはわからなかったけど、楽しそうだったので良しとしよう。教典の何かだろう言葉を口にしながら神官を倒していくところはかっこよかった。神官服着てるミイラが黒い力でやるから妙に中二くさくて良い……中二ってなんだ。なんか久しぶりにまた自分が知ってるようで知らない言葉が出てきて頭が痛い。思い出すならちゃんと思い出してほしい。後でアリシアとイライザに相談してみよう。その前に。
「マスター、こちらが悪霊のヒカルちゃんと、ホタルちゃんです」
戻ってきたばかりのアリシアが紹介してくれる。ただ二人とも例の黒いもやもやに巻かれたままで、ちょっとこのままではお話しできる雰囲気じゃない。
「ありがとうアリシア。かっこよかったよ」
ねぎらいつつ、お仕事に区切りついたんだしその拘束術ももう解いていいんじゃないかなーという雰囲気を出してみたつもりだったが、うまく伝わらなかったようだ。仕方がない。
「ええと、ちょっとお話したいんだけど……」
「あ、忘れてましたマスター」
伝わったようだ。アリシアが術を解く。
「絶対嘘」
「そんなわけないでしょ……」
拘束を解いたとたんに二人から文句が出る。なるほど、元気な双子だ。アリシアが黙らせたまま連れてきたのも理解はできる。
「まあまあ。ようこそ……ええと、この場合どこへって言うべきかな?」
◆◆◆
武装神官たちも、本国から来た連中も帰ってこなかった。悪霊ごときにやられるわけはないのだが、じゃあ誰がというと全く心当たりがない。本国から来た連中は黒王がらみの案件として扱っていたが、本人たちがそもそも信じてなさそうだった。本国の田舎神殿のやらかした失敗に、こっちの悪霊騒ぎを関連付けて責任回避のでっちあげを狙っている、そんな雰囲気でしかなかった。とはいえ。そしてうちが出したのが最精鋭とは言えないメンバーだったとはいえ。それなりの人数がいて、さらに、どの程度役に立つのかは知らないが田舎神殿とはいえ神官長の肩書を持つ程度には力のある上級神官も、その取り巻きもいて、誰も帰ってこないというのは一体どのような要素が加わればそんなことが起きるのか……カルド国教会筆頭祭司フィオナは混乱していた。悩んでいたのでも苦悩していたのでもなく、考えていたというほど思考が整理できるでもなく、ただ意識をぐるぐると巡らせていた。
「いやこれ本当にわけわからないじゃないの」




