31 宣言
関係ないのではなかったか。そう思う一方で、やはり来てしまったか、とも思っていた。本当に何の根拠もない予感のようなものではあったが。
「そんな予感、当たらなくてよかったんですけどね……」
それにしても……神官長サイネスは思う。何という美しいアンデッドだろう、と。
「サイネスさんじゃないですか。何してるんですか」
乾いた、軋んだ、鉄錆を擦り合わせるような声。それが、彼女にはこの上なく似合っているように思えた。
「あなたとの関係について悪霊に問いただすために来たんですが……」
事態が非常にややこしくなった。しかし、問答無用で神官たちがつぶされなくてほっとしてもいた。サイネスはアリシアが出て行った時の被害、バラバラにされた武装神官たちのことが目に焼き付いてしまっている。
「関係も何も」
「いきなりきたミイラと関係あるわけ」
拘束された悪霊たちが口々に騒ぐ。同時にしゃべるものだから何を言っているのかわからないが要するにこの悪霊たちと彼女は初対面なのだろう。
「ああもううるさい!」
アリシアが神官たちの拘束術の上から黒いもやのようなもので悪霊たちを押さえつける。神官たちの拘束術が光を失う。悪霊たちを開放するのかと思ったが、単に黙らせた力の余波で神官の術がかき消されてしまったようだ。
「……アリシアさん、神殿を出て行った時よりずっと、なんというか……」
「キレイになりました?」
冗談めかしたその声は、少し弾んでいるように聞こえた。この自然さはなんだろう。出て行ったときは何かに引かれてその目的のためにただ走り去っただけに思えたが、今の彼女はそういう意味では全く別物のようだ。
「……ええ、美しい、と思いますよ」
率直な感想を伝える。正直恐怖はある。自分の口が乾いているのも、顔に血の気がないのも自覚している。
「ステキなマスターに出会いましたから」
「マスターというのは黒王のことですよね?」
別に特別な意味があったわけではない。軽い確認、そのつもりだった。しかしアリシアはそれに対して一瞬強い怒りを露わにして……その怒気が急速にしぼんだ。その一瞬だけでサイネスを含む神官たちは何百の死を感じたのだが。そして、息をしないはずのミイラが、大きなため息をつくのを神官たちは見た。
「マスターが今いる場所が場所だから仕方ないですけどね……あんなのと一緒にしないでもらえますか?マスターは死霊王になるお方なんですから」




