30 乱入
「挨拶の出来はともかく、とりあえずはお仕事が始められそうですね」
突然来た指揮責任者にあまり良い感情がないとはいえ、同じ神に仕える身でもあるし、別の側面で見れば彼らもまた組織人ではある。手続きに不備がなく、待遇に問題もなく、仕事内容もいつもとそう変わらないということであれば、気分はともかく表面的にはきちんとまとまったプロジェクトチームの出来上がり、である。
「こちらでは悪霊化自体がそれほど珍しくはないそうですから……」
補佐官は書類をまとめる手を止めず、視線も書類から外さない。
「現地に行けばきっとすぐ解決しますよ」
「そうですね、そのはずです。そういう意味でも、お待たせしてしまったのは申し訳ないですよね……」
「神官長は気にしすぎなのだと思いますよ。我々もそうですが彼らも、仕事は仕事として割り切ってると思いますが」
「みんながあなたぐらい割り切ってたら、もっと仕事は楽なんでしょうね。それに……」
口ごもってしまった。補佐官が顔を上げて、神官長の方を見る。
「それに?」
「いえ、なんでもありません」
みんながあなたのようなら、神様も必要とされないでしょうね、なんて言えるわけがなかった。信徒からの相談には、仕事を仕事として割り切れないが故の悩みも結構多いものなのだ。
◆◆◆
二体の悪霊は神官たちに囲まれていた。神の加護、いわゆる神聖魔法によって悪霊は空中に固定されている。
「放してよ!」
「私たちが何をしたってのさ!」
勿論何もしていないわけがない。最初の被害者だけであればまだ言い訳のしようもあったのかもしれないが、その後の被害者については彼女たちの生前受けた被害と関係がない、というより生前になんの関与もなかった相手であることが判明している。
「とはいえ、この辺りでは一般的な悪霊のようですね……特に力が強いとかでもない」
つい漏れた神官長の独り言に、現地の武装神官メンバーが言葉を返す。
「だから言ったでしょう、特に変わったことなんてないって。あんたらが待てって言わなければ何件かは被害が防げたのに……」
それは事実なのだろう。討伐を待ってもらったことで無駄に被害が増えた。
「じゃあ後はやっちゃうんで離れていてください」
「待ってくれ、一応聞いておかなければ。そのために来たんだしね」
「わかりました。このまま確保しとくんでさっさと済ませてください」
神官長が前に出る。あり得ないとはいえ、アリシアとの関係を聞かなければ。それが仕事なのだから。ここの神官たちもそれはわかってくれているから待ってくれている。そう思ったとき。
「双子だなんて聞いてないんですが」
それはやって来た。




