03 つまみ食い
自分に何かが繋がった気がした。俺はぼろ椅子の上で、ありもしない目を開く。視線の先ではないどこかに、女の子が見える気がする。そして。
「おやつの時間かね?」
味がしたわけではない。匂いがあったわけでもない。ただ、なんとなく、ほんの少しだけ満たされた気がした。おやつをちょっとつまんだような。そして、自分の飢えに気づく。中途半端に食べると逆に我慢できなくなるというやつだ。たぶん。
「もっと」
言葉に特に意味があったわけではない。赤ん坊が教えられなくても乳を吸えるように、俺はその何かをもっと欲しいと思い、そのように何かが動いた。それだけだった。それ以上の意図も、なかった。にもかかわらず。
少女は倒れた。
◆◆◆
少女は倒れた。しかし机に構成された魔術回路を崩すことはなかった。その結果。魔術的なつながりは途切れることがなく、少女は吸われ続けた。魔力を、生気を。みるみる乾いていく肌、やせ細っていく腕、髑髏のようになっていく顔。その存在が保てなくなるまで。そして百年に一人の逸材と言われた少女は、苦しむこともなく骨と皮だけになって……突然跳ね起きた。新たに沸き上がる本能に突き動かされるように。
扉が吹き飛んだ。少女の私室として与えられていた部屋の扉だ。通りかかった下級神官が目を見張る。そこにいるはずのないものが、着ることを許されない服を着ている。神官服を纏うアンデッド。
「あなたは……」
少女だったものは応えない。何かに突き動かされるように出口を求める。よくわからないなりに身体を張って止めようとした下級神官はあっさり跳ね飛ばされる。なんとか気力と体力を振り絞り、非常用の警笛を鳴らす。甲高い音が神殿内に響き渡る。
あり得ない場所、神殿内の奥深くで発せられたその警報は神官長の耳にも届いていた。眉を潜め、気配を探る。
「アンデッド……ですね」
ざわつく神官長付の補佐官たち。
「理由はわかりませんが、単なる侵入者というわけでもなさそうです。誰か様子を見に行ってもらえますか」
「では私が」
若手の補佐官がすぐに返事をすると、そのまま出て行った。こういうときの動きは素早い。しかし見送る神官長の目は変わらず険しい。彼には、簡単には終わらないのではないか、という予感があった。