28 死霊王
この城の主であった黒王は勇者と対峙した。それはすなわち人類にとって対処可能な敵だと認識されたということでもある。一方吸血鬼や悪霊、魔物、その他さまざまな存在は人類の脅威ではあっても敵ではない。それはいわば災害に等しい。一人の英雄が打ち滅ぼすのではなく、人が人の力で個々に、あるいは時に組織的に“対策”するのが災害である。
「死霊王?」
それら“災害”扱いされるものの中には、いくつか王とつく者たちもいる。有名なところでは吸血鬼の王など。そして死霊王は、数多のアンデッドを率いる王なのだそうだ。
「それを名乗って欲しいということかな」
なんとなく、ここが黒王の棺と呼ばれた場所だと聞いたので黒王ってのをいずれは名乗るのかなと思っていた俺は、ちょっと驚きつつその意図を確認する。
「名乗るというのは適切ではないとおもいます、マスター」
「わたくしは……聞いたこと……ない……ですわ……死霊……王……」
サラがワンテンポ遅れて話に入ってくる。少しはなめらかに会話できるようになってきたが、まだまだ改善の余地がありすぎる。あと、お嬢様言葉は抜けないのな。個性的でよろしい。
「古い文献に少し記述があるだけですから」
イライザがフォローする。しかしイライザが知っているのはその記述の内容ではなく、“そういう記述が存在する”という知識だけらしい。
「マスターはその“座”に一番近いところにいる、ということです」
「あ、もしかしてまた魔術世界の話かな……?存在を満たす枠組、だっけ?」
アリシアの説明が俺には少し難しい方向に行きそうだったので念のため確認する。苦手が俺の顔に出ていたのだろう、アリシアがかわいい溜息をついた。息はしてないのでこれはそういうジェスチャーである。
「大丈夫です、マスター。説明はしなくても、マスターはそうなるようになっていますから。それはそれとしてですねマスター、サラちゃんの実家で面白い話を聞いてきました」
「面白い話?」
「悪霊の双子が隣の国で派手にやらかしたらしく、神殿が対応に人を派遣するそうです。わたしとの関連を疑われていたようですけど。会ってみたくないですか?」
まあ、興味はあるけど。死霊王の話とも、なにか関係あるんだろうか。
「では」
「悪霊……恐ろしい……ですわ……」
「サラちゃん、絶妙なタイミングで流れを断ち切りましたね」
(予告BGM)
人がいて組織があれば、そこには様々な思惑もある。神官とて人の身。外れてほしい勘だってある。
次回、予感。死霊王に、俺はなるっ!




