26 親子の対面
サラの顔をした妙な死体と、それを運んできた神官服を着たミイラの来訪。敵意はないらしいと聞いて辺境伯は会ってみることを選んだ。何の用かはわからないが、調査官の言っていたミイラなのだとしたら、戦ってどうこうなる気もしない。むしろ初手で衛兵を殺されなかったというだけでも僥倖と言えるかもしれない。せっかく敵意を向けないでいてくれているのだ。相手の機嫌を損ねないように、しかし何かあった時に被害を少しでも減らせるように。そう思ってせめて会う場所を離れにする。どの程度意味があるのかはわからないが。そして、調査官のところにも人をやると、自らは“客人”たちの待つ離れに向かった。
◆◆◆
そこにいたのは見たこともない服を着た、頭に呪符のようなものを貼り付けたアンデッド。そしてその顔は確かに。
「サラ!サラなのか?」
「この子が“お父様に伝えたいことがある”というので連れてきたのですよ」
隣にはどう見てもミイラ。錆をこすり合わせるような声で話す。これが調査官の言っていた、武装神官が足止めも出来なかったというミイラなのか。見た目で判断はできないと十分理解はしているつもりだが、それでもやはり、そうは見えない。
「お父様……不可視の結界は想定より……ずっと広く……魔物も人も出られず……調査隊は全滅……私も……」
息の漏れるような音と共に、かすれたような声で話す。
「しかしサラは」
「私もすでに……生きては……ああ……」
辺境伯が顔を覆う。ぎこちないとはいえ動き、別れた時と似ても似つかぬ声だとはいえ、自ら言葉を発する娘が、自らを死人だと伝えてくる。それは覚悟していたのとは違う角度から彼の心に衝撃を与える。
「用も済んだことですし、帰りましょうか」
アリシアが手に持った鈴を鳴らそうとした。しかし
「すみません」
後から来た男が声をかける。
「少々お待ちいただけますか?いくつか伺いたいことがあるのですが」
◆◆◆
正直舐めていたと言わざるを得ない。せっかく彼女たちを離れに案内してもらったので、調査官は部下のうち探知魔術や結界に長けたものを外に配置し、探らせるつもりでいた。これなら本邸と違いまるごと術をかけてもそれほど失礼に当たらない上に範囲も狭くて済む。事後承諾になるがそれは仕方がない。そう思っていたのだが
「あ、これだめなやつ」
アリシアを見た瞬間すぐに合図を送り部下たちを解散させる。下手に魔力で刺激するとどうなるかわからない、そう直感が言っていた。彼自身魔術が得意なわけではないが、そういう直感は当たるのである。
「すみません」
なので、あとは聞けることだけ聞いたら穏便に帰ってもらおう。そう方針を変更した。
「少々お待ちいただけますか?いくつか伺いたいことがあるのですが」
(予告BGM)
調査本部長は自らの職務を全うしようと質問を続ける。果たして彼は無事聞きたいことを聞き終えることができるのか。
次回、黒王と悪霊。死霊王に、俺はなるっ!




