25 サラの帰還
辺境に生きる者には辺境に生きる者の生き方があり、覚悟がある。それは人の世界そのものである中央と違い、人の世の果てに生きる者の在り方でもある。森に出なければ安全なのではない。必死で維持している安全な範囲の外が森であり、人の世の果ての向こう側であり、人ならざるものの領域なのである。そして時には人ならざるものの訪問というのもある。地方によってそれは竜種であったり、吸血鬼であったり、あるいは邪妖精の類であったりする。境界を侵し人を貪るような類の訪問が一般的だが、時には何の問題もなく、あるいは多少の家畜の被害などを伴う程度で終わる。それはいわば災害である。明確な世界の敵に対しては抑止力としての勇者が現れるようだが、災害は人の手で備え、あるいはやりすごすより他にない。それは辺境の人々にとって“そういうもの”なのだ。
「では、伯は正しい判断の結果として、あくまで結果としてそのようになったのだと?」
「正しいとは言わん。だが、ここは辺境なのだ。人の対処が常に期待通りの結果を生むわけではないし、いかなる判断も変えられない結果というものもある」
辺境伯は積極的に娘を死に追いやったわけではない。死なせるつもりで救援を出さなかったわけでもないだろう。辺境特有の覚悟あるいは諦観が、いわば冷静な損切りが、親子の情を上回った、つまりはそういうことだったのだろう。それは中央から来た調査官には理解しがたいものだった。しかし、そういった関係者の様々な思いや疑念をまとめて吹き飛ばすものが、辺境の地に訪れる。
◆◆◆
鈴を鳴らす神官服を着たミイラと、妙なポーズで跳ねる謎の服を着た死体。歩みは遅い。それを見た民は直接目を合わせることを避けた。きっとそれは見てはいけない何者かなのだと、辺境に生きる者の本能のようなものが告げる。ただ見張りだけが領主のもとへと知らせを届けた。知らせを受けて衛兵たちが守りを固めていたところに、それらが現れる。それらを見やったアリシアがつぶやく。
「ああもう、面倒ねえ……」
そして、それなりに正しい礼の形をとる。マスター相手ではないのであくまで、今は敵意がないことを伝える程度の雑なものである。サラは動かない。
「使者というわけでもないのだけど。こちらのお嬢さんがお話したいそうよ」
衛兵たちがざわめく。彼らはサラの顔を知っていた。辺境伯に話が伝わるのを待つ。すこしあって、彼女たちは離れに通された。
(予告BGM)
訪れた使者、父と子の対面。そして、調査本部長の打つ手とは……?
次回、親子の対面。死霊王に、俺はなるっ!




