24 疑惑
男が部下達とともに辺境伯領入りしたのは、そろそろ森の緑に赤や黄色が混ざってきた頃だった。期間を定めない出張なので、小さな屋敷を借りてそこにしばらく皆で住むことになる。
「しかし、何から手を付けようかねえ……」
いきなり黒王の棺に向かうつもりはなかった。調査隊がどうなったのかもわからない以上、うかつに手を出すことはできない。やつれた様子の辺境伯から少しは事情を聴いたものの、調査隊が戻らなかったことからの推測程度の内容しかなかった。
「不可視の結界の範囲が広がっている可能性、ね」
黒い直方体は以前と変わりがないように見える。ただ、その外側に不可視の結界があり、長い間その範囲は変わっていなかったのでその手前まで調査隊は行って帰るはずだったという。そして簡単なはずのその任務から、調査隊は帰ってこなかった。とはいえ何かが引っかかる。
「不可視の結界に囚われたかもしれない、場所がわからないから捜索隊を出しても同じことになるから出さない、なるほど」
それは理解できる。ただ
「結界が問題なら、対処できる魔術師を呼ぶなりなんなりできそうなものだが、はて……」
辺境伯が娘を失って憔悴している、それ自体は事実だろう。しかし。
「何かを知っていて、それを隠している……?」
◆◆◆
「マスター、サラの城外での動作試験のために外出したいのですが」
「サラ?」
「マスターのオリジナルアンデッド試作一号ちゃんです。生前の名前がサラだったそうです」
「なるほど。城外で何をするのかな?」
「サラが死ぬ前に、父親に何かを報告したいと言ってたので、まずはそれをかなえてあげようかと」
ふむ。まあそれは特に問題はないだろう。ただ、聞き捨てならないことを言ったような。
「ってちょっとまて。試作一号ちゃんってことはまだ作るつもりなのか?」
「はい。あれ、マスターの夢にはマスターが鈴かなにかで誘導して大量のアンデッドを使役してるところもあったのでてっきり……」
そういえばそんなのも見たかもしれない。
「まあ待て待て、量産型はそのうち考えるとして、まずはサラの質を高めていくのを優先したい」
「マスターがそうおっしゃるのでしたら」
◆◆◆
サラの服はもともと着ていたものではなく、マスターの夢に合わせてあまりこの辺りでは見ない服を着せている。服といっても、マスターの無尽蔵ともいえる魔力を変換したものなので形はどのようにでもなるし、直接身にまとわせることができるので着替えの事もあまり考えなくていい。特にサラは身体が硬いのでこのような形で服が用意できるのはとても助かる。そういえばイライザちゃんの服も今度マスターにおねだりしてみないと、全裸のまま出歩くのはどうなんだろう、等々とりとめもない思考をもてあそびながら、アリシアはサラを連れていく準備をしていた。
(予告BGM)
跳ねる死体、先導するミイラ。辺境伯の苦悩をよそに、娘は里帰りを果たす。
次回、サラの帰還。死霊王に、俺はなるっ!




