21 創作意欲
サラはよくやったと言えるかもしれない。傷だらけになりながらもまだギリギリ息絶えてなかった。つまり、まだ食べられてはいなかった。
「よかった……」
「あれならマスターも喜んでくれるわね」
しかし、そう走りながら言葉を交わす二人の視線の先で、サラはとうとう崩れ落ちた。
「いけない!」
急がないと食べられてしまう。そう判断した二人はまっすぐ魔物たちを踏みつけながらサラのところに駆けつけた。魔物の群れの中に、赤い道ができる。
「死ん……生きてる?」
死んだか本人に問うのもさすがにおかしいかと思い、アリシアはそう言い直すとサラを抱き起こした。イライザは魔法で強化した腕力で魔物の群れを挽肉に変えるのに忙しい。
「お父様に……結界が……調査隊……」
朦朧とする意識の中、サラは必死で伝えようとする。もはや彼女は、そこにいるものがまっとうな人間であるはずがない、ということにも気づけない。
「そうね、お父様にはあなた自身で伝えるといいわ」
アリシアはそう言うとサラの胸に手を当て、心臓の動きを止めた。
◆◆◆
「無事確保できました、マスター」
「ありがとう。じゃあ、術の話の続きにしようか」
「はい、マスター」
急に素材が来たので。まあそれはともかく、城に運び込んでそのまま寝かしてあるのは、下準備としてもちょうどいい。
「自由な行動については動きのタイプの違うゾンビという感じですね。これはそれほどややこしくないかと」
「呪符、というのでしょうか。これで動きを制限して、使役する……なるほど、これなら」
イライザが何か思いついたようだ。
「つまり?」
「マスターが彼女を縛る術と、彼女を自由に行動させる術は独立して構成される、ということです」
「マスターの夢の中のゾンビと、ゾンビマスターの関係は、そうなっていると考えるとしっくり来ます」
「そして相互の術の依存を最低限にする、というより基本的に依存関係をなくすことで、設計が単純化され、術としては堅牢なものになります」
「……うん、まかせるよ」
俺は考えるのを放棄した。術とか、魔術回路の設計思想の話なんだろうけど、どうにも難しい。ざっくり言えば簡単で単純なもので実現するほうが偉い、ということなんだろうか。イライザのオリジナルの魔術回路についても酷評だったしな……にしても、イライザもアリシアによる再構築の影響なのか、アリシアの思想に同調してるように見える。声質が違うからまだ判断できるけど、正直話してる内容だけではどっちがどっちなんだか。どちらの声もかわいいんだけどね。
「まあでも、アリシアもイライザも、楽しそうでよかった」




