20 調査隊の不幸
予想外の遭遇ではあった。森に入った調査隊は、黒王の棺の黒い結界の手前、三重の不可視の結界があるとされているラインまで無事たどり着き、そこで出会ったものから逃げていた。不可視の結界については昔調査に当たった魔術師が指摘したものであり、サラの持つ地図にも当然その位置は書き込まれていた。何度か再調査も行われていて、その結界は黒い結界同様特にその位置が変化していないことは確認されていた。そのはずだった。しかし、そこにいた魔物、生物、それらであったもの。それは地図上の結界の向こう側からサラたちに気づくと、結界があるはずのラインを超えて追ってきた。不可視の結界もまた、一度取り込んだものは逃がさないはずなのに。
「どういうことですの!」
サラが逃げながら叫んだ。調査隊のメンバーが謎の一団から守ってくれてはいる。しかし全員での帰還は難しいかもしれない、と頭の片隅の冷静な部分が判断していた。背中に冷たいものが伝わる。そもそも森というのは人の手がまともに入っていないから森なのであり、常に人の予想の通りになど整っていない。辺境貴族とその臣下である彼らは当然そんなことは熟知しているつもりだった。ただそれにしても。
「ぎゃん」
不可視の壁にぶつかる。
「え、どういうことですの!ねえ!どうなっているんですの!」
サラが取り乱す。そこにあるはずのないもの。不可視の結界。地図に書かれていたよりずっと遠くに広がっていたそれの意味すること。後ろから迫ってくる魔物たちの群れ。
「どういうことですの!ここを!開けなさい!解除なさい!誰か!
」
調査隊には魔術師も随伴しているが、そもそも結界を超えたことにも気づけなかったのである。解除などできるわけがない。サラにもそれはわかっている。そしてサラは魔術が使えない。無駄だと知りつつ不可視の結界に向かって爪を立て、体当たりをし、蹴り、様々な行為を試みる。
「開きなさい!このっ!」
「サラ様!」
アルフレッドが叫びながら目の前の魔物を切り捨てた。今、調査隊の面々は、彼女の無駄な挑戦の時間を稼ぐためだけに、盾になって戦っていた。
◆◆◆
「ちょうどいいかもしれません、マスター」
「ん?何が?」
「飛び跳ねるゾンビの材料です、マスター。すぐそこでもうすぐ新鮮な死体が」
アリシアが割とひどいことを言う。
「生きてるうちには間に合わないと思いますが、早くしないと食べられちゃうと思います」
イライザもひどいことを言う。でも、食べられちゃうぐらいなら、ねえ。
「まあ……せっかくだし回収をお願いしようかな?二人で大丈夫?」
「もちろんですマスター」
「お任せくださいマスター」




