19 遠い日の記憶のようなもの
睡眠とは違うのだろう、少し頭が緩やかに働く時間。骨の体だし夜行性っぽい気がするから、これはきっと外は昼間なのかもしれない、そんなことを意識の周辺部ではぼんやり考えながら、意識の中心は夢を見ているかのような感覚に落ちて行っていた。俺には肉体があり、そして夢独特の主観と客観が時折切り替わる視点でそれを見ていた。あるいはそれは俺自身ではなかったのかもしれない。俺はなにやら不思議な術を使うおっさんで、なにやらピョンピョン跳ねるゾンビのようなものを使役していた。幽霊とも会話していたような気がする。過去にそのような体験をしたのか、俺の妄想が生み出した光景なのかはわからないが、少なくとも俺はそれを“知っている”と感じていた。
「……という夢を見たんだが」
「ピョンピョン跳ねるゾンビ、ですか?マスターがそれを使役していた……」
アリシアがかわいらしく首をかしげる。
「私の記憶領域にはそのような知識は記録されていません、マスター」
イライザも頑張って思い出そうとしてくれたようだ。彼女は彼女自身の記憶とは別に、制作時点で様々な知識を補助記憶に詰め込まれている。
「マスター、少なくとも神学校と神殿で学んだ範囲にも、そういったアンデッドの存在はありませんでした」
アリシアの表現は多少控えめかもしれない。彼女が“学んだ”範囲は一般的な学生や神官のそれを大きく逸脱する。
「ただ、死霊術はあまり本気で研究するようなものではないという風潮がありますので、体系だった知識として残されていないだけで、どこかにはそういうものもあるのかもしれません」
アリシアもイライザもその知識は体系化されたものである。アリシアの実践新たな術の構築もその延長線上にあるものであり、全く見たことも聞いたこともないものを突然生み出したりするようなものではない。ただ、知らないことはそれが無いことを証明しない。のだが。それはそれとして。
「んー、アリシア、イライザ」
俺は二人に呼びかける。
「今そういう存在があるかどうかはこの際置いておくとしてさ」
ちょっとしたイタズラを思いついたような気持ちで、俺は言葉を続ける。
「二人の知識と能力で、そういう術を作ることなら、きっとできるんじゃないかな?」
意味があるかどうかで言えば、きっとないだろうな。でも、誰も知らないような存在、それは少し……ワクワクする。
「わかりました、マスター」
「やってみましょう、マスター」
良かった、二人とも乗り気みたいだ。本当にかわいいなあ。
「では、マスターの見た“夢”を、私たちに」




