17 調査隊の姫
サラは地方貴族の三番目の娘である。貴族の娘であるから、父の出世のために生きることに特に不満はない。それなりの立場でそれなりの成果を上げて、それなりに箔をつけて……少しでもマシな家に嫁ぐ。そういう生き方は別に珍しいものでもないし、サラ自身父の役に立ちたいと考えていた。そんな父のもとに調査の要請が舞い込んできのだから、サラとしては当然これを利用しない手はない。
「それにしても、今更黒王の棺の調査とは」
父のあきれたような声に、サラはまっすぐに返す。
「今更、実に結構なことじゃないですか。どうせ何も起こらないのであれば、安全に実績を得ることができますわ。せっかくですので、私にいかせてくださいません?」
「それもそうだな……」
何も出なくても、父は調査、つまり中央からの依頼に協力したポーズが欲しい。サラは調査隊を率いた実績が欲しい。この国の辺境と呼ばれる土地で、それなりの地位を築いてきた者たちの、ドライな判断がそこにはあった。そして彼らは黒王の棺の近くに領地を持つ辺境貴族として、その存在に慣れすぎてもいた。実際にそこにミイラが向かった等と信じてはいなかったし、万一実際にミイラが向かったのだとしても、あの黒い結界の中から二度と出てくることはないだろうと思っていたのである。なので、形だけそれなりに整えるための調査隊の編成に話は移っていった。勿論、ある程度の人数で森に入るのだから不測の事態というのは考えられる。そのために、少なくとも辺境において森に入り無事に出てくる程度の備えは万全に行った上での“形だけの調査隊”である。中央で指示だけ出す連中とは意識が違う、と本人たちは思っている。
「調査隊長はお前だが、実質的に隊を仕切るのはアルフレッドだ。お前はついていくだけで大丈夫だから」
「わかっていますわ、お父様。念のため私の持つ地図にも事前の情報はすべて書き込ませますが、きっと役に立つようなことにはならないですわ」
数日の準備期間を経て、調査隊が編成される。森に入り、黒王の棺の手前まで行き、何の異変もないことを確認して戻ってくる、ただそれだけの、本当に形だけの調査。サラは現在求婚されている三人の貴族たちの顔を思い浮かべていた。できればその中でも一番地位の高い男のもとに、あるいは父にあと一つぐらい肩書がつけばもしかしたらもう少し上が目指せるかも、顔も良ければもっといい。そのような期待と妄想だけが募るのであった。




