15 マスター
玉座でぼんやり座りながら、右手でアリシアの手を、左手でイライザの手を握って俺は考え事をしていた。握り心地の全く異なる二人の手だが、俺はどちらの感触も気に入っている。
「そもそもマスターって何だ?」
「「マスターはマスターです」」
口をついて出てしまった疑問に、何の意味もない返事が即座にステレオで返ってきた。まあ、わかっていたことではある。しかし彼女たちが何故俺をマスターと呼ぶのか、アリシアをミイラにした力は一体何なのか、誰かに教えてもらいたいのだが。
「マスターの力が何なのか、ということであれば……」
アリシアが慎重に口を開く。
「そもそも私のような生きた人間や、イライザちゃんのような死体を、自由意思を持ったアンデッドにする、というのは、一般的な死霊術の範疇から大きく外れています。第一、マスターは私をミイラ化するにあたって何の魔術も行使していません。……ですよね?」
「魔術……アリシアがイライザに何かしてたような奴だよな」
「……はい。力を吸い出し眷属を作り、力を与えて自由に行動させる。それは人の魔術ではなく、例えば吸血鬼などの生まれ持った特性に近いものに思えます」
俺が雑に「何かしてた」と言ったことに多少脱力したように見えるアリシアだが、俺には魔術のことはよくわからないので仕方がない。
「って、吸血鬼いるの?」
「ええと……」
アリシアが妙な反応をする。イライザも色違いの目で見つめてくる。なんかくすぐったいな。
「勿論、いますよ?住んでいる地域は限られますが、彼らの領域に近い人里では対策がとられています」
「アリシアさんのいたような神殿でも、対策のお手伝いをしているようです」
「俺、気が付いたらここに座ってたんだよね……」
よく考えたら妙なことを言ってるな俺。ここで発生したわけでもないだろうに。というかその“前”があったという感覚はある。玉座で何十年何百年寝ていたというのとも違う。ここではないどこかで、何かをしていて、何かが起きて。何故かここに座っていた。たぶん。
「マスターはここがどういう場所かご存知ですか?」
どう、と言われてもさっきも言ったように気づいたら座ってただけだしな。そういえば外がどうなってるのか、どんな場所に建ってるのか、何も気にしてなかったな。言われてみればそれも変な話だ。何か、俺の興味の対象に制限がかかっているかのような。しかし何か特別な場所なんだろうか。
「それと……」
アリシアが俺の目をのぞき込んでくる。
「マスターにはここが、どのように見えていますか?」
サブタイトルの番号を0はじまりから1はじまりに修正しました。




