マスターは依頼を受けるようです
冒険者の店の本店や支店、カードの基本的な使い方等を、三人の新規登録者といっしょに講義室のような部屋で聞く。後ろにさっきの口の悪い女の子。あとは、魔法使いっぽい灰色ローブのおっさんと、まだ小学生じゃないかと思うような男の子が説明を受けている。後ろの子はあまり真面目に聞いている様子ではない。後で困ったりしないかねえ。
「では、説明はここまでです。まずはとにかく依頼ボードのところに行って、簡単なものでも依頼を受けてみるのがいいと思います」
なるほど先生の言うとおりだ。俺はそう思い、さっさと席を立つと階段を降りて依頼ボードへと向かった。他の三人はどうやら先生に質問があるらしくまだ残っている。少し気にはなったが依頼の方が先だ。
「これとこれをお願いします」
いくつかの採取系の依頼を確認して、受付に持っていく。
「はい、サカモトさん。採取は手慣れたものだと思いますが、気を付けてくださいね」
ん?手慣れたもの?
「そうでした、記憶がないんでしたね。カードをお借りしても?」
いつも預けてるものだし特にダメな理由も思いつかず、素直に受付付にカードを渡す。受付嬢は表示用の水晶をこちらに見やすいように動かしてくれた。
「わざわざ特記事項として、量を頼んでも採取が雑にならず、ミスも少ないと本店で記入されてるんですよ」
なんだろう、冒険の最初のお約束っぽい採取依頼を受けようと思っただけなんだが、記憶をなくす前の俺も同じようなことを考えたんだろうか。変な話だけど、以前のよく知らない自分に親近感がわいた。
「じゃあ、期待を裏切らないようにがんばらないといけませんね」
「私も連れて行きなさいよ」
話が終わったのだろう、口の悪い女の子がすぐ横に立っていた。
「ああ、口の悪い女の子……」
「ミリーよ!なによその呼び方は!」
「……そのまんま?」
灰色ローブと小学生はまだ依頼ボードのところでああでもないこうでもないと依頼を吟味している。ちなみに小学生と言ったがここに小学校があるのかどうかは知らない。このミリーは自分で依頼を探すつもりがないようだ。
「どうせ誰かと一緒に行くなら、自分で読んでも無駄でしょ。それに聞いてたわよ、あなた採取得意なんでしょ。連れて行きなさいよ」
断るのも面倒だ。俺は受付嬢と一瞬だけ顔を見合わせると、このミリーという子に付き合うことにした。
◆◆◆
「マスターがまた草むしりを……」
「いっそかわいいんですわ」




