135 お城に帰るまでが遠足です
お城に帰るまでが遠足です。遠足ではないけど似たようなもの。ホタルがついてきているのにも驚いた。ストーカーじゃないんだから。それにしても、帰ると決まるまで一切存在を気取らせなかったのはすごいな。正直に感心する。
「見てただけですから……」
「飽きないのはわかるぴょん」
どうやら、ウサギ女も一緒に行くらしい。
「その棺も持っていくんだぴょん?」
ああ、吸血鬼な。城でもうちょっと遊ぼうかと思ってるんだが。みんないるところの方が色々試しやすいだろうしな。
「……悪趣味だぴょん」
怪奇ウサギ女の言われたくないな。怪奇というより猟奇か。あれもこれもウサギの死体から作ってるらしいじゃないか。
「それはそれ、これはこれだぴょん」
適当な奴だ。しかしよく考えたら、とりあえず吸血鬼を一通りしまった棺桶をそのまま持っていこうとしているのは少々雑かもしれないな。とはいえ死なないのは確認したし、棺の中でそのうちキレイにくっついてるんじゃなかろうか。であれば、大した問題ではなさそうだな。よし、気にせず帰ることにしよう。
◆◆◆
ちょこちょこと冒険者の店に出ている依頼をこなしながら、特に大きな事件もなくキリタチまで帰ってきてしまった。だいたい遠足でも旅でも帰路というのはあっさりしているものだ。そして、城にもどって一区切りついたかなというところで。
「マスターには、すこし人としての経験が足りないように思います」
ここに来たときは人としての色々なものが欠落していた上に、今も外見的には諸々欠落しているアリシアにそう言われてしまう。
「何を考えているかは分かるつもりですが」
声も、錆びた金属をこすり合わせるような、人が出していい声じゃない。かわいいけど。
「本当はマスターの召喚前の記憶と、今回の冒険者としての経験で十分だと思っていたのですが」
どうやら前世の記憶的なものがうまく呼び起せていないらしい。
「記憶回廊も、アシュが失敗させてしまいましたから」
「仕方ないじゃない、チャンスだと思ったんだから。ねえ、お兄ちゃん」
アシュはアシュで、妹じゃないだろう。
「雑な仕掛けで失敗して、マスターの記憶も中途半端にしか呼び起せなくて……まあ、仕方ないんですけどね」
アリシアが顔を近づける。
「で、考えたわけです」




