131 論文の行方
そしてエルシャはとんでもないことを言い出した。
「将来的にはここに大聖堂が出資するアカデミーを作るのも良いと思うのですが」
「そんなこと言い出すのはエルシャ様だけですよ……ていうか誰がそこに入りたがるんですか」
補佐官としてはわけのわからない仕事を増やさないでほしいと思う。
「市井の人々はふんわりと神殿の信仰を持ちふんわりと生きていると言うではないですか。であれば案外……」
補佐官は頭を押さえる。比喩ではなく実際頭痛がしてきた。いくらあまり真剣な信仰を持たない市井の人々であっても、そんな立場の微妙なアカデミーに入って神聖魔法を中心とした研究に身を投じたいと思うわけがない。だいたい、その目的なら既にスクールがあるのだ。そして一番大きな問題。
「ではですね、そこで神聖魔法について本気で研究したとして、大聖堂がそこに出資するメリットは何ですか? 我々はどちらかというと神秘を神秘として扱いたいんですよ?」
「ああ!そうでした、そうでした」
それを忘れないでほしい、補佐官は大きなため息をついた。
◆◆◆
「ミノンの“塔”というのは、色々あるのですよね」
サラがアバンに聞いている。興味があると言うよりは、世間話のひとつといった雰囲気だ。
「そうですね。あの街は見た目にもわかりやすく、塔がたくさん立っていますから」
「そういえば、塔の住人って言ってたな」
王国側に戻ってきたときに確かそのような事を言っていたはずだ。
「住人、というのはつまり、上位のアカデミーに自分の研究室を持つ、ということですね」
イライザが確認する。直接は知らないはずだがインストールされた知識にあるのだろう。
「そうですね……あ、もしかしてイライザさんって、あの……あ、いや」
「あの……というのは?」
「……すみません、口が滑りました」
もしかすると、イライザの作られた経緯を知っているのだろうか。
「何か心当たりがあるなら別に言ってもらっても」
「……非常に失礼な質問なのですが……イライザさんはもしかすると、その、死体と魔道回路で構成された……?」
合ってるな。まあそのままではないのだが。
「論文を見かけたことがあるのですが、そこに書かれていた内容とあまりにかけ離れていたので気付きませんでしたよ。正直、生きた人が魔道回路で強化しているものとばかり」
「論文…?」
「きっと最初に私を作った男が書いたものなのでしょうね」
「アカデミーには正式には受理されなかった論文なのですが、縁あって私が見る機会がありまして」
アバンとしては、多少面白いとは思ったもののそれほど惹かれるものではなかった。死体が動いたからと言って、それがどうしたというのだ、というのがそれを知ったときの感想だった。しかし、イライザの正体を知った今、その感想は変化しつつあった。




