126 吸血鬼を回収しましょう
「これはこれは……」
アバンの目がすっと細くなる。
「マスター側から接続していただきましたので、魔力の干渉を割り出すことができました」
何かアバンが細工をしていたということだろうか。器用そうな男だし、なにかと隠し事も多そうだ。吸血鬼の里も、俺たちについてきたというより、自分も用があったみたいだし。
「なるほど、アバン……アバンツァード、ですか」
アリシアが何かを考えている気配がする。
「まあ、いいんじゃないですか」
何か知っているようだが、アリシアがいいと言うなら多分いいんだろう。
◆◆◆
魔剣は、上も下も右も左もない異空間を漂っていた。
「あの小娘……好きなだけとか大口を叩き追って。結局多少の人間と、あとは旨くもない吸血鬼の血を吸えただけではないか……」
吸血鬼の生命力はあまりこの魔剣の口には合わないらしい。
「もっと人間の血をわらわに飲ませていれば、小娘もああも無様を晒すことはなかったろうに……」
通りすがりの盗賊らしきものは斬り捨てたが、人間の血を味わえたのはそれだけだった。街にでも向かって斬りまくることを期待していたので、期待外れも甚だしい。
ちなみにミーシャの言った“亜人”であるが、物語にこそ出てくるものの存在は確認されていない。
◆◆◆
アバンは何か黒くて薄い布ようなものを広げると、口の中で呪文を唱えたようだった。その気配に反応して、広げた布の橋が起き上がり、折りたたまれる。
「箱……っていうか棺桶か」
「はい。吸血鬼を運ぶのでこのようなものを用意しました」
「それにしても、よい眼をお持ちですね。いえ、知ってはいたつもりだったのですが」
道中観察されていたのだろうし、普通の眼ではないことぐらい気付かれていたのだろう。アリシアとのやりとりにも干渉できていたなら俺よりこの体については詳しくなっているかもしれない。俺が全然理解していないだけ、とも言う。しかしアリシアのサポートを本気で受けると正直なんでも見えるんじゃないかとすら思う。
「さすがになんでもというわけには行きませんが……」
思いつく程度のものなら大抵用意されてそうで、それはそれで怖いな。便利だけど。
「マスター、こちらの子が息を吹き返しそうですわ」
ああ、本当だ。正直何もできないだろうと思ってあまり気にしてなかった。
「あら、この子、眼の色が……」
イライザも声を上げる。二人ともいつの間にか俺が投げた女の子のところに移動してたんだな。しかしどうやって運ぼうかな……
「もしよかったらミノンまでそっちの吸血鬼も一緒に運びますよ?」
いつの間にか男の方を棺桶に収めたアバンの提案に、俺は乗ることにした。




