125 男を無力化しましょう
「お前の都合は聞いてない」
俺はそう言うと男をとりあえず魔力をそのままぶつけて壁にたたきつける。あ、脚片方ちぎれた。まあいいか。
「アリシア、アリシア、聞こえるよな」
「はいマスター。ずっと見えてますし聞こえてます。マスターが冒険者ごっこをお楽しみでしたので、お邪魔するのもどうかと……」
「ありがとうアリシア。ところでこの兄ちゃんを、いじられたポイントを壊さずに無力化したいんだけど」
言いながらとりあえず腹と両手、のこった脚にそれぞれ杭を飛ばして固定する。
「でしたらそうですね、聖なるシンボルをこんな感じに……」
頭の中にイメージが流れ込んでくる。なるほど、と思っていると後ろ手女の子が動いた。魔剣を持って磔の男に飛び込もうとしているが
「横取りはよくないぞ」
上から魔力の塊を落として地面にたたきつける。
「横取りしようとしてるのはあなたでしょう!」
そういえばそうだったな。しかし
「よく言うだろ? お前のものは俺のもの、俺のものも俺のもの」
「言わない!」
「じゃあ俺が今言った」
俺はそういいながら片膝をついたままの女の子に魔力をたたきつける。が、男と違って吹っ飛ばない。まあいい。首に片手をかけ、持ち上げる。
「何を……んっ」
唇を合わせる。強制的に魔力と生命力の流れを作り、一気に吸い上げる。さすが吸血鬼、ミイラになったりしないのな。それでももともと限界寸前だった体から力が抜ける。魔剣が床に落ちて軽い音をたてた。
「色々楽しみたいけどそれはまた後でな」
女の子を放り投げる。しばらくは動かないだろうから後で拾いに行こう。
「わらわはまだ血を……」
「マスター、その魔剣は危ないので空間のすきまに」
「なるほど、こうかな」
空中にすっと指で線を引くと、何もない空間が裂ける。
「やめろ! わらわはまだあの小娘と……」
魔剣を直接触らないように魔力で空間の隙間に放り込むと、指でなぞってその裂け目を閉じる。
「なんかジッパーみたいだな。さて」
壁に縫い付けた男の方に向きなおす。俺の手の中にはすでに魔力から作った小さな聖なるシンボルがいくつも乗っている。
「改造の詳細はわかりませんが、ここに打ち込めば修復可能な形で機能停止させられるはずです、マスター」
「ありがとう、やってみよう」
俺の視界には男に重ね合わせて表示された魔術回路と、聖なるシンボルを打ち込むべきポイントが、さらにそれぞれのポイントの近くには拡大図が見えている。
「無くなった脚のところにも魔力回路はあるんだな」
どうでもいいことを呟きながらさくさくと作業を終える。
「アバン、これでいいかな」
「アバンさんというのですね。初めまして、でしょうか?」
アリシアの声にアバンが驚いた顔をした。




