124 吸血鬼の男と遊びましょう
「できれば力づくが良いのですが……」
アバンが答える。
「魔術的に、あるいはそうですね、魂の在り方のレベルで操作されていますので、あまりそういうところに関わる攻撃は避けていただけると助かるのですが」
魂に関わるような何か、できるかできないかで言えば……うん、この体でもできるっぽい。優秀だなおい。それにしても、この男は一体なんなんだろうな。
「とある場所で、吸血鬼の根源にかかわる研究が続けられているのです。その成果の一つですよ」
とりあえずいくつかの刃を出しながらアバンの話を聞く。
「結局のところ吸血という行為を代償なしに消すことはできなかったのですよ。何人かの吸血鬼を改造したようですが、吸血の方がマシと言える代償がほとんどだったのです」
殴りかかった俺の拳が空を切る。予測位置表示のサポート付きなんだけどな。とはいえ俺の死角から放ったつもりだろう蹴りはちゃんと見えている。魔力球を出して脚を破壊……できなかった。ちゃんと反応して止めるのか。
「あの男は、虐待……まあ弱い者いじめですね。それによって力を得る。周りが不死の吸血鬼であるなら、ご覧のようにいつまでもいたぶり続けることで、吸血せずとも無限に活動することができるでしょうな。人には被害が及ばない」
魔術的に操作されてると言ってたな。視界を切り替える。魔術回路をスキャン。
「人が人のために吸血鬼を壊す、ということかな」
「噂ではもともとは神祖の始めた研究らしいですよ」
ぴく、と男が動いた。多少動揺したように見えるが……
「神祖の力を与える、と聞いていたが……なるほど、神祖の研究成果という意味だったか」
動きが止まるかに見えたのは一瞬だけで、すぐに拳が襲い掛かる。光学情報に限定されない全方位視界の、たぶん補足しきれない何らかの死角から。
「まあ何でもいいさ。俺はここでこいつらをいたぶって過ごす。気が向いたらどこかに行くかもしれんが、少なくとも今はここから動くつもりはない」
届いてしまった、と思った拳に木でできた串のようなものが何本も刺さっている。
「それにしても、お前もよくわからん存在だな」
接触された瞬間思考速度が加速、接触ポイントに一方通行の物理結界を展開、内側に白木の杭を形成、射出。俺の体のやったことだが、なんだこれ。
「ちゃんと痛いじゃねえか」
いや、骨とかよくわからない魔法素材とかじゃなくて、木ってどういうこと。疑問を解消する暇もなく吸血鬼の男がヤクザキック。物理結界を無効化、自動反撃を靴底で防いでそのまま吸血鬼の力でねじ込んで来る。
「ああもうめんどくせえ」
俺は呼び出した太めの杭で男の脚を地面に縫い留めた。
「アバンが後で直せる程度に壊す。壊してパッケージングしてプレゼントだ。いいな」
「直せるなら問題ありませんとも」
アバンが軽く答える。
「そんな簡単に壊されてやらねえよ」
男は言うが……知ったことか。俺はめんどくさいのが嫌いなんだ。あと男の相手はつまらん。そろそろ女の子と遊ばせてくれ。




