121 エルシャはミノンにたどり着いたようです
ミノンのアカデミーは無数の塔から成り、そして街の大半を占める。この街はアカデミーを中心に成り立っているのだ。その結果街のほとんどはいくつかの塔のグループで構成され、一風変わった外観を形成している。
「なんというか、雑多なものですね」
エルシャはつい大聖堂と比較してしまう。整った美しさを持つ大聖堂と、その周囲に整然と広がる聖都をエルシャは最高に美しいと思っている。一方、その整った世界だけでは神の意志を世界に示し切ることができないと思って、聖堂の裏に回った身でもある。そして、今のエルシャはそれですら足りないと思ってここに来た。聖都と全く異なる趣を持った街並みも、塔の連なりも、エルシャを高揚させるに足るものだった。ここでなら新しい知識が、今までにない力が手に入るのではないか、そう思えた。
「さあ! 街に入る手続きに行きますよ!」
「やっぱり本気なんですね……」
色々と諦めた顔で補佐官が言う。そしてそれを聞いたエルシャは心底不思議そうな顔で聞き返した。
「私が本気でなかったことがあったでしょうか?」
「……いつも本気でなければいいなと思っているんですけど……確かに一度も無いですね……」
エルシャとて別に表立って迫害されるような場であれば多少は考える……ような気がしている。もしかしたらそういう場になればむしろ開き直るのかもしれないが、考慮ぐらいはするかもしれない。そうだといいな。まあ何にしても今この場では特に神官が迫害されるということはない。信仰のかけらもない、奇跡をただの魔術としてしか見ていない視線や、神官という職に対する敬意のなさが普通の神官には苦痛なので、せめて自分が神官であるとアピールしないことで、プライドを保つか、そもそもこの街には近寄らない神官が多い、というだけである。
「今の私に必要なのは! 神を神とも思わない視点なのですよ!」
「だからそれって異端じゃないですか……」
「私が! この私が異端に転ぶのでなければ! 何の問題もないのです!」
「まあ確かに異教徒の魔術書だって我々は読みますしね……理屈はわかりますよ?」
「分かっているじゃないですか!」
神官にとって神の存在はゆるぎないので、異教や異端の言うことは異なる神の話などではなく、単に神への理解不足や、間違った視点からの神の理解である、という認識である。そして一部の神官は、それでも何らかの奇跡や魔術が実際に行使されるのであれば、その誤った視点の中にもなんらかの真実が含まれる、あるいは誤ったものにも神の慈悲が与えられる、といった理解をしている。だからエルシャはゆるぎない信仰のもと、世間から見れば、あるいは大半の神官から見れば邪悪な実験であってもためらわずに行えるのである。
「我々は、私の聖女は、より強くならねばなりませんから!」




