12 強奪
そろそろ帰らせてくれないかなと助手たちが思い始め、男の顔が悔しさと怒りから疲れと諦めに変わってきたころ、突然それは起こった。何度か破壊音が響いたと思ったら、部屋の扉が爆発した。
「な……」
助手たちの視線がそちらに集中する。そこには皆が知っている真っ白な聖衣を着た、ミイラがいた。
「このXXXX!マスターが困ってるじゃないの!」
鉄錆をこすり合わせるような声。それを発したモノを認識した男が目を見張る。つい立ち上がってしまう。
「なんだそれは……何なんだそれは!」
ミイラは彼の趣味ではなかったが、複数の術で強化された体を持ち、自立行動するアンデッドというのはまさに彼が目指したかったものに見えた。実際にはアリシアを動かしているのはマスターの力であり、アリシアを強化しているのはアリシア自身の術なので、協調して動作するように設計したものではない。その上ミイラ化した肉体はアリシア一人のものであり、それは男が作りたかったものとそれほど近くはないはずなのだが。
「でも、イライザの方が……」
「この子イライザっていうのね。マスター、イライザちゃんどうしますか」
つながったままの魔力線を通してアリシアが聞く。もちろんそれまでのやり取りも全て共有されている。
「せっかくだから連れてきて」
「はい、マスター。ではイライザちゃんを起こします」
「は?」
呆けた声を出す男の脇を素通りすると、アリシアはとりあえず助手たちを吹き飛ばして壁のしみに変えた。横たわるイライザの近くに立つ。
「何をする気だ!」
「無駄に複雑で効率の悪い魔術回路は後で全部書き換えてあげるとして、今はとりあえず雑なつなぎをやり直して起動しましょう」
酷評である。しかし実際滑らかに動くアンデッドに、非常に精錬された術を組み合わせて強化されているそれに言われたのでは男はぐうの音も出ない。とはいえ後で全部やり直すと言われては、そうですかというわけにもいかない。それを行うためにきっとイライザは連れ去られてしまう。
「待て。イライザをどこに」
「うるさいわね」
アリシアが軽く手を振り、男の首から上が赤い霧になる。倒れたそれには一瞥もくれず、イライザの顔に手を載せ、目を覆い隠す。魔力回路同士の接続部分だけに手を加え、連携効率を改善する。
「あ」
起動用の魔力源に男を活かしておけばよかった、と思ったが後の祭りである。仕方がないので自分で起動する。起動部分にも無駄なギミックがあるようだが面倒なのでパスして直接魔力を流し込む。
「おはよう、イライザ」
イライザの目をふさいでいた手を放す。イライザがゆっくりと体を起こした。
「後はマスターに直接、ね」




