118 出国準備
たった二つとはいえ一応依頼をこなして、冒険者カードにもその実績は書き込まれたはずだ。まあ言ってみれば単発バイトを二つこなしただけではあるが……
「ユータローさん、採取系の依頼もう少し受けていきません?」
受付の子が声をかけてくれる。聞いてみるとどうやら思ったより採取依頼の内容が評価されるようでびっくりだよが、一応目的地もあるし、アバンも待たせているしな。
「戻ってきたらまた受けますよ」
なんとなくそんな返事をしてみる。採取が丁寧で量の割にミスが少ない、とか言われると多少の嬉しさもあるしな。
「そうだ、みなさんユーグゼノに行くんですよね?」
あれ、話してたっけ?
「すみません、国境がどうこうってお話は聞こえてたので……それでですね、もしよかったらいくつか依頼受けていきませんか? 冒険者の店の依頼で国境を出て活動するという形にしておけば、簡単に通してもらえます」
短期商用の短期滞在ビザみたいなものかな。
「いいけど、いつ戻ってくるか決めてないんだけど大丈夫?」
「大丈夫です。あまり長くなると別の手続きは必要ですが」
出国の理由について冒険者の店が保証する形だから向こうで延長についての手続きもできるらしい。便利じゃん。で、何を受ければいいんだろう?
「そっちも採取系なのですが、いくつか滞留してるものがあってですね……ユータローさん達ならついででこなせるんじゃないかと思って」
そして小声でこう付け加える。
「供託金半分でいいですよ」
いいのかな。まあ滞留してるよりは、ついでにこなしてもらえそうな相手に押し付けといた方がマシってことなのかもしれない。せっかくそこまでしてくれるのだし、俺ならって言ってくれるのも嬉しいので受けることにする。国境越えるときの面倒が減るのも嬉しいしな。
「ではみなさん依頼による出国という形で処理しますね」
「助かるよ、ありがとう」
登録カードを渡して、水晶玉にかざすと何かが書き込まれたらしい。俺にはよくわからないけど。
◆◆◆
「ちょっと心配ですね」
「マスターなら大丈夫じゃないの?」
アリシアの呟きにアシュがあっけらかんと答える。
「ええ、大丈夫だとは思いますが。それにマスターのあの体がだめになってもここに戻ってくるだけなので、そういう意味では心配してないんですが……」
アリシアも別にマスターに危険が及ぶとはあまり考えていない。しかし
「体の影響をうけて妙に人間臭くなっているというか、マスターがマスターらしくなくなってしまうんじゃないかと……いえ、かわいいのですが」
駆け出し冒険者として楽しく仕事をこなし、冒険者の店で出国に備えるマスターを見て、そのかわいさがどうしても不安を煽る。このまま人間っぽくなってしまったらどうしよう、と。その話をニヤニヤしながら聞いてたヒカルはあっけらかんと言った。
「言ってることはわかるけどさ、まあでも吸血鬼相手に暴れたらすぐ人じゃない自覚なんて取り戻すんじゃない?」




