116 お約束
やはり異世界で冒険者登録して最初のクエストといえばコレじゃないだろうか。
「マスター……大型の泥竜を倒せるマスターが何故……」
イライザが心底不思議そうな顔をする。まあそうだよな。
「わたくしには向いてませんわー」
いやサラはその硬直モードやめればどうにでもなるだろ?
「いいえ、これは貴族の娘としての嗜みですわ!」
嘘こけ。そんな貴族令嬢嫌すぎるわ。ていうか生きてた時はそんな動きしてないだろ?
「では死体令嬢の嗜みということに……」
なんだよ死体令嬢って。一人しかいないだろそれ。俺は必要な薬草を摘み取りながら雑な会話を楽しむ。
「そういえばサラは試作って言ってなかったっけ」
イライザに話を振る。アリシアといっしょにサラを改造してた時に確かそんなことを言ってたと思うんだよな。複数体同時に使役するものなんじゃないか、って。
「ええ、準備は進めていますよ。服もマスターの魔力で維持するのでなくて、ちゃんと商会に注文していますし」
意外な話を聞かされた。
「それは……試作機と量産型っぽくていいな!」
「わたくしはキカイではありませんわー!」
なんとなく脳内にサラVSメカサラ みたいなのが浮かんだが頭を振って脇にやる。俺は。しかし
「キカイですか……キカイで再現しても面白そうですね。そして本物のサラさんと戦うことに……」
「なぜわたくしがキカイの偽物と戦う話になってますのー?」
イライザが反応するとは思わなかった。ところで見ようと思えば360度の視界に加えて探しているものを重ねて表示してくれる俺の目だと、薬草採取の依頼ものすごく楽なんだけど。ちなみに表示がなければ俺には雑草の茂みにしか見えない。普通の冒険者の人たちはすごいな。みんなこんな感じで物が見えたら便利だろうな。
「マスター、儀式魔法でパンを焼くような人はいないんですよ……」
儀式魔法が何なのかは微妙にわからなかったが、要するに非効率すぎるんだろうな。
「それなりに戦える冒険者を薬草採取に回すだけでも十分非効率ですわ」
そりゃそうか。とはいえこれで今日の夕飯はちょっと豪華に楽しめるはずだし、飯の後は三人とも寝なくていいのを活かして、不寝番の仕事を入れているから
「マスター、その仕事の取り方は明日以降はやめた方がいいと思います」
「何かまずいかな?」
「人のふりをするつもりであれば、ですが……普通の人間は寝ないで二日も三日も仕事を続けるとまともに機能しません」
「ああそうか、確かにな」
だいたい二徹や三徹、あるいはそれ以上しているとわかっている相手に不寝番は任せたくないよな。
「しかしそうなると暇になってしまうな……」
「少し移動の必要な依頼を受ければ良いだけなのでは……」
それもそうだった。ついつい街の近くで済ませようと考えてしまってた。




