11 失敗
「なんかピリッと来たな」
わずかだが異質な魔力が体に流れた気がして、俺はそう口にした。
「出来の悪い死霊術みたいです、マスター」
つないだ手から流れてきた魔力を読み取り、状況を察したらしいアリシアは容赦なく評価を下す。彼女の知識からするとあまりにも雑。複雑に構成すればよいというものではないし、系統の違う術のつなぎ合わせも力ずくで効率が悪い。そもそもこれではまともに術が起動しない。
「きちんと閉じていない術式から魔力漏れを起こしています。マスターの体は特別ですから、そういうものに反応してしまうんです」
少し怒りのこもった声でアリシアが言う。俺はそれもかわいいなと思う。
◆◆◆
イライザは起動しなかった。“パッチワークのお嬢さん”は、ゆるゆるとその体に負の魔力を流しながら、静かに横たわっている。
「手順二から五、八から十、十三以降を再実行」
「手順二から五、八から十、十三以降を再実行します。」
助手の術者達は事前に用意した再起動手順に従い、何度目かの作業を淡々と進めている。男だけが拳を震わせ、唇をかみしめ感情を露わにしていた。
「すみません、もういちど主系統に魔力をお願いします」
助手の一人が近づいてきて言いにくそうに男に声をかけた。あまり聞きたい話ではないが、とはいえ男にやらないという選択肢はない。助手たちも、男が中止を宣言しない限り再起動手順を繰り返すしかない。
「イライザ……」
横たわる彼女の頭の方に立ち、上からのぞき込む。顔を両手で挟み、目に浮かぶ魔法陣をのぞき込む。右目が右目を、左目が左目を。二つの瞳が、ふたつの魔法陣が重なって見える。流し込んだ魔力を呼び水に、二つの瞳から魔力が流れ出す。これを何度繰り返しただろうか。ここまでは毎回うまくいっている。
「起きてくれ、イライザ」
◆◆◆
俺は落ち着くのを待っていたが、いつまでたってもピリピリがおさまらない。たまに強くなったり弱くなったりはしているのは、その“出来の悪い死霊術”とやらに何かしているのだろうか。
「困ったな……ずっとピリピリしたままなのかな?」
「はい、マスター。残念ながら」
残念過ぎる。しかしアリシアはさらに残念な言葉をつづけた。
「このままでは術は正常に起動しません。ただ、半端な回路はずっと動き続けます。術者が死なない限り……あるいは術者の死後も」
「えぇ……」




