107 留守番組は退屈しているようです
大聖堂のどこか。真っ暗な部屋の中に、いくつかの人の気配がある。他には水の流れる音と、紙をめくるような音。
「回収には成功したようですよ」
「エルシャ様も無茶をされる……」
暗闇の中で当たり前のように会話する者たち。
「で、モノはいつ届く?」
「三日ぐらいでしょうか」
「ではそれまでにこちらも準備しておかねばな」
「到着に合わせて、予備を起こしておきましょう」
階段を降りる靴音。
「また新しい手法がもたらされるのでしょうか」
降りて行かなかった何者かの声。少し震えているのは恐怖か、歓喜か。
「これも試練よの。“神の与える試練にはすべて全力をもって応えるべし”」
「幸いなるかな、幸いなるかな、幸いなるかな」
◆◆◆
大きなウサギは時間とともに薄くなり、それとともにロープと鈴の結界も力を失った。
「あんなにがんばって……一体何をしに来てたのかしらね」
兎に蹴られて飛んで行った少女も、死にこそしないだろうが無事とは思えない。アリシアが首をかしげながら玉座の間に戻って来る。マスター不在でもなんとなくここが皆の集まる場所になっている。不在といっても抜け殻となっている骨の体は相変わらず玉座に腰かけているし、その股間はわずかに光を放っているのだが。
アリシアは玉座の前に展開しているスクリーンをのぞき込んだ。
「あらあら、楽しそうね」
スクリーンには泥竜の背に乗るマスターと二人が映っている。
「私も行けばよかったかしら」
マスターと一緒にいる二人がちょっとうらやましいアリシアである。しかし
「それはちょっと困るかなー」
上の方からアシュの声が降ってきた。直接侵入者を排除できるのはミイラであるアリシアだけで、あとは悪霊と城しかいない。悪霊はあまり物理攻撃に向かないし、城は基本的に動かない。
「街の人とは別に森の中に少し言うことを聞く人か魔物が必要ねぇ」
「森の一部をダンジョンとして少し作り替えるのがいいかもしれないわねー」
「アシュって何なのかしらね?」
「何ってお城だけど……」
「ねえ知ってる?お城って普通喋らないのよ」
「死体って普通動かないのよ、っていうのと同じくらいには知ってるわよ」
ため息が二つ、重なった。
「体すらない子もいるけどね」
「体なんて飾りです。偉い人にはそれがわからんのです」
ヒカルが何かを真似ているような、わざとらしい口調で言う。
「またマスターの記憶から何か引っ張ってきたわね……元が何かはわからないけど、多分その人も体はさすがに飾りって言わないと思うわよ……」
「それもそうね……」
要する、マスターの映像にも特に動きがなく、彼女たちは暇なのだった。




