106 乗り物を手に入れた
力尽き、命の灯が消えようとしている泥竜を前にして。
「マスター、マスター」
「ん? どうした?」
「あの泥竜とかいうのに乗っていくことはできないでしょうか」
できなくはないと思うが、アバンに怪しまれないかな?どこまでついて来るつもりか知らないけど……
「しかし先ほど私たちをゾンビとフレッシュゴーレムだと」
「ああそうか。どうせ皆ただの人間とは思われてないってことか」
「その上であまり気にしてなさげな様子、こちらも気にするだけ無駄かもしれません」
「跳ね続けるのも面倒ですわー」
サラは歩くなり平行移動するなりすればいいじゃん。
「やってみるか。生前と同じ手段で移動できるだけであれば、ちょっと生命力を吸えばいい感じに使える気がするしな」
「ほほう、興味深いですな」
「やり方を聞かれてもわからんぞ。そういうのに詳しい子も連れてきてないしな」
アリシアとのつながりはまだ回復していない。
「いえいえ、せっかくですので見せていただけるならそれだけでも」
「それぐらいならかまわんよ。むしろ詳しい仕組みがわかったら教えてくれると助かる。ただ……魔術方面にはとんと疎いのでな、聞いてもさっぱりわからないかもしれないがな」
軽口を叩きながら残っていた生命力を一気に吸い込む。ほどほどにフレッシュさを残しつつ、泥竜をゾンビ化する。人のような意識を持たないせいか、特に自立思考するようなモノにはならないようだ。ところで俺に体のどこにこのエネルギーは溜まってるんだろうな。ちなみに、味は悪くない。
「むむむ……なるほどなるほど」
アバンの目が怪しく光った……ような気がした。
「さて、背中にどうやって乗ろうかな」
なにせでかいのだ。登るにしても大変だし、伏せさせたところで厚みが減るわけでもない。
「一旦泥に潜らせてはいかがですかな」
アバンが提案してくれる。
「泥の中を進む生き物ですから、乗る時だけでなく移動するのも、泥にある程度沈んでいる方が動きやすいかもしれませんぞ」
「なるほどそういうものか……こうかな」
背中の一部を残して泥の中に沈ませてみる。幅広い背中の両端に隆起があるので、ちょうどその間に居れば具合がよさそうだ。ワニのように何本も隆起が走ってなくて助かるな。
「いい感じだな。よし、じゃあ行こうか」
遠目には俺たちが突っ立ったまま滑っているように見えるんだろうな。まあ誰も見てないからいいか。
こうして俺たちは移動手段を手に入れた。




