103 屍兎跳々呪
鈴の音が小さく、しかし一定の周期で鳴り続けている。すべての方向から聞こえてくる音に、感覚が狂わされる。
ポーチから取り出した装飾のないダガーに呪符を添える。それを五本、まとめて上に向かって投げる。いかなる力によるものか、呪符を貼り付けたままダガーは飛んでいく。
周囲を囲むロープの鈴の音がだんだん大きくなっている。
「おいでおいでおいでおいでうさぎさん! だぴょん」
無造作に投げた五本のダガーは、アリシアとラパンを囲む五角形の領域のそれぞれの頂点の地面に刺さった。貼り付けられた呪符の文字が光ったかと思うと、燃え上がる。
ロープで作られた魔法陣の中心に、二本の脚で立つ巨大な兎の屍があらわれた。慈愛に満ちた、しかし腐った目玉でアリシアを見つめる。そして、鈴の音にあわせて跳ねる兎。
「え、なに」
兎の向こうには、何かに耐えようと構えているらしいラパン。目をぎゅっと閉じている。スターン、スターンという兎の跳ねる音と、シャン、シャンという鈴の音。
「これならなんとかなる……はずぴょん」
本来は自分の身を守りながら、指定した敵を遠くへ蹴り飛ばす呪法である。今回ラパンが指定したのは、守るべき相手にアリシア。そして、蹴り飛ばす対象がラパン。つまりこれからラパンは、自分を思いっきり蹴り飛ばさせるつもりなのだ。
「うぅ……痛そうだぴょん」
しゃんっ!と一際大きな音が鳴ったと思うと、ラパンの体は宙を舞っていた。一瞬遅れて全身がバラバラになりそうな痛みが襲ってくる。
一方紐で描かれた星の中にはアリシアと兎が残された。鈴の音はもうしない。
「出られない……わね」
一定時間は外界から隔離されるのだろう。この結界の中で粘られたらあるいはアリシアももう少し苦戦していたかもしれない。とはいえ、どちらかは兎に守られ、どちらかは兎に蹴りだされる、という制約を受け入れるからこその、この強度なのかもしれないが。
「」
◆◆◆
「死んでもおかしくなかったぴょん……」
蹴られた衝撃と落下の衝撃で、曲がってはいけない方向に曲がったり、見えてはいけないものが見えたりしているラパンが、ぼろ雑巾のように横たわりながら零した。
「……よく生きてるな」
「本当にそう思うぴょん……」
念のためラパンに渡されていた呪符に呼ばれて指示された地点に向かったヴィム達が見たのは、生きているのが不思議なぐらいのダメージを受けたラパンだった。ただ、非常にゆっくりとだが、体が元に戻ろうとしているのが見て取れる。割とグロい状況から目をそらしながら、アレクが聞いた。
「回復魔法をかけてもいいのか?」
「かけてくれたほうが助かるぴょん……このままでもそのうち治るけど……結構痛いぴょん」
ちなみに、この瀕死のダメージがある種の自爆によるものだとは、さすがに分室メンバーたちには思いつきもしなかったのだった。




