102 チェインドリーパー
兎の剥製が消え、代わりに鎖で縛られた、大きな鎌を持った何かが現れる。まかれた鎖の下はぼろぼろの衣のようだ。顔はフードで見えない。
「死神ってやつかしら?」
どこかの地方の伝承にあった気がする。そう思いアリシアは首を傾げた。あまりメジャーではない上に、実体を持つというのは聞いたことがない。その死神らしきものが、鎖で封じられた姿で存在している。
「たぶんそうだぴょん! 死んでないなら殺せるはず! だぴょん」
紙に筆を走らせながらラパンは叫ぶ。
「ほどいてよし! だぴょん」
縛っていた鎖が高い金属音とともにはじけ飛ぶ。本来なら縛られたままでも魔術を行使できる。しかしラパンはそれではこのミイラに太刀打ちできないと判断していた。故に死神の切り札を最初から切る。
「…………」
死神が何かうめき声のようなものを上げながらアリシアに近づく危険は感じるものの、アリシアはつい好奇心に負けてその体と鎌をじっと見てしまう。
「…………!」
声とともに突然振りぬかれた鎌がアリシアの首を薙ぎ払う。鎌の刃は骨と皮だけの首をすり抜けた。
「やったか! だぴょん」
多分やってないだろうな、という予感を伴いつつ、ラパンは言ってみた。しかし当然のようにアリシアの声が返ってくる。
「生者にならきっとこれはきついわね」
その感触から物理的な攻撃ではなく、生命を刈り取る鎌のようだ、とアリシアは判断した。しかし違和感こそあるものの、アリシアはほぼノーダメージである。
「死者でも生者でもないぴょん?」
アリシア自身、自分がどちらに属するのかあまり深く考えていなかった。ただ、死霊王に仕える者であるなら生者ではあるまい。それにラパンの口ぶりからすると、生者なら命はなかったのだろう。
「……そういうことになるわね」
「相性が悪すぎるぴょん……」
命とは何か、生命力とは何かとは関係なく“生きている”という事象に干渉し“命を刈り取る”はずの大鎌が、何も起こさなかったのを目の当たりにして、ラパンは少しげんなりしていた。ただ、すでに手の中には書きあがった呪符がある。
「まあ、何とかできるとは思ってなかったぴょん。やばすぎるぴょん」
ラパンはポーチから何かを取り出すと、後ろ手でそれを放り投げた。その何かを起点に、鈴がいくつもついたロープがラパンとアリシアを大きく取り囲むように走り、一筆書きで星を描いた。ついでに取り出した剥製兎に使ったものと同じ呪符で、死神を後ろに下がらせる。
「まあ、時間は十分に稼いだぴょん」




