100 ラパン・ラビット
ラパンは自分がそれなりに強いと思っている。少なくとも今までピンチに陥ったことはあっても、本気で死を覚悟するようなことは無かった。頭の上に揺れる兎耳は余裕の表れでもある。しかし、
「面白い術を使うのね」
錆びた門扉を開けるような声を聞き、これはだめだ、と思った。ラパンは死霊術に近いものを使う。故に他の魔術師に比べると、アリシアの存在を正確にとらえることができていた。目の前のミイラがとんでもない魔力が外部から供給されていること、そして魔術的に継ぎ目がないこと、とにかく普通でない何かと向き合っている、という実感。しかし、それを見た上でラパンは薄く笑っていた。
「楽しんでいってもらうぴょん」
足止めを買って出たのは、自分が他のメンバーよりマシだと思っているから。自分が他のメンバーほど重要な役割を持っていないと思っているから。何よりも……自分が一番強敵との出会いを待ち望んでいるから。
「楽しませてもらえるのかしら」
「受け身の姿勢は良くないぴょん」
ポーチから用意してあった呪符を取り出す。
「ちゃんと楽しんで欲しいぴょん!」
投げられた複数枚の呪符は、空気抵抗など無いかのように真っ直ぐに飛び、アリシアの手前で兎形の炎に変わった。
ラパンは兎に関連する触媒を好む。呪符に使う墨は兎の膠で練ったものだし筆も兎毛を使うが、それだけでなく、呼び出すもの、形作るもの、共に兎になぞらえたときが一番調子が出るのだ。しかしその、威力に自信のある炎はミイラに片手で振り払われた。
「不思議なんだけど、サラちゃんと似た匂いがするのよね……」
アリシアはラパンの術の雰囲気にマスターの夢で見せてもらったものと近い何かを感じ取っていた。
「サラが誰かは知らないけど……」
「マスターに同じにしてもらえばわかると思うわよ。どう?」
何かが全身を包み込む。腰に下げていた兎の脚が弾け飛んだ。幸運のお守りとしての兎の脚に様々な術を重ね掛けした、身代わりの護符である。
「死んだ!……っぴょん!」
身代わりがなければ即死だった。一瞬語尾を忘れそうになるほどに焦った。出し惜しみしている場合ではない、そう感じていた。
「あら、すてきなお守りを持っていたのね、残念」
「まだまだ!お楽しみはこれからだぴょん!」
しかし新たに呪符を書く余裕などあるわけがない。ラパンは頭の上の兎耳を片方、むんずと掴んだ。
ラパンの話の続きも近い内に書きます……
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