10 パッチワーク
彼の作品の周りで、手に紙の束を持った助手たちが忙しく動き回っている。最後の点検だ。死霊術だけでなく複数の系統の術を複合して作り上げた、他の誰にも組めないであろう複合型魔術回路。残念なことに彼はそれを起動できない。彼がかつて死霊術以外の道を模索するにあたり身に着けた様々な魔術知識を、彼はこの術の設計に惜しげもなく投入した。
「与えられたままに術を起動することなど誰にでもできる。見たままに構築するのも単なる作業だ。そんなつまらないことは金で雇った者にやらせればいい」
作業している助手たちは皆、金で割り切って作業を行う術者である。ここ数か月、彼らは男の設計に従い死体を切り刻み、つなぎ合わせ、そこに魔力経路を刻み、通し、さらには複雑な術式を組み込んでいった。ゴーレムなどの作成ではボディの担当と制御術式の担当に分かれることなどはあるが、複雑な術式をいくつも詰め込み組み合わせて動作する魔術回路を複数人で担当するというのは、作業に当たる助手たちもあまり聞いたことがなかった。正直こんなやり方があるのかと舌を巻くとともに、この男がもう少しその特異性に気づいてそれを活かしていれば違う道もあったのではないかと多少残念に思ったりもする。とはいえ彼らは金で雇われ頼まれた仕事を全うするプロフェッショナルであり、余計なことを雇い主に言ったりはしない。
「最終点検項目すべて問題なし。起動前作業開始します」
「起動前作業を始めたまえ」
彼の作品の目が開く。色の違う左右の瞳に異なる魔法陣が浮かぶ。それぞれの目の元の持ち主は異なり、得意とする術も違った。それを片方ずつ手に入れ、組み込んだ。彼女の制御の要、魔力の源でもある。そこから漏れるわずかな力が、彼女の体中に刻まれた補助術式、いくつもの小さな魔力回路に流れ込む。縫合痕の走る裸身のあちこちにぽつぽつと小さな光が灯っては消える。
「補助術式すべて正常に起動しています。縫合状態にも問題なし」
「疑似神経系接続します」
「疑似神経系の接続を確認。伝達ロスは設計限界の一割程度」
全身に青い光で描かれた複雑な文様が浮かび上がる。男は少し離れた位置からそれを見ていた。術者たちが手順に従い作業を進め、それに従い彼の作品が色気を増していく。男の目にはそう映っていた。下半身に力が滾る。
「よし……いいぞ……イライザ……」




