月の都の書架 一
【異世界】
日本のある地球と異なる世界。
現実に魔力が存在し、魔法という神秘の技がある。
また地球的にあったファンタジーに出てくるような伝説の武器や、魔法を駆使する恐ろしい魔獣も存在し、人類は厳しい生存競争を強いられている。
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【神殿】
世界各地に在る神殿は神の栄光と聖霊の恩寵《恩寵》を語り、異界に潜む悪邪あくじゃの脅威を解いている。
聖霊は世界の管理者であり、悪邪は異なる空間や次元から現れる超存在の一つである。
悪邪と対になる概念として聖威があるが、その分類は『聖霊に認められているか否か』による。
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【人類】
人種には人間や亜人と呼ばれる獣人、エルフ、ドワーフやプレーリービー、そして魔人等が世に知られている。
亜人達は人間よりも強靭な肉体あるいは特殊な能力を持っているが、スス同盟国のある西方では人間の数の方が多く、また支配する領域は広大である。
その理由として、人間の方が他の人種よりも繁殖力が高く、また個々の環境に特化した亜人達に比べて、異なる環境への適応能力が高いという点が挙げられる。
亜人達が魔力の属性適性を一つしか持てないのに対して、人間は複数の属性適性を持つことができる。
それを駆使して厳しい状況を乗り越えられるのも、亜人達から脆弱と言われる人間の強みだろう。
逆に獣や精霊の特性を持つ亜人達の中には、あまりにも環境に適応し過ぎて、極めて限られた場所でしか生きる事ができなくなった者達もいる。
戦える場所が限られる亜人達は多くの戦場で『戦えない場所』で人間に敗れていき、人間はその汎用性を武器にして、他の人種との生存競争に勝利を積み上げていった。
※ちなみに他の人種達からは、人間は『ゴブリン』という蔑称で呼ばれることもある。
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【十三人の奴隷】
ヨハン達の時代より一億五千万年前にあった古代帝国末期において、異世界【地球】より召喚された十三人の人間。
古代帝国により生物兵器へと改造され、その猛威を振るった。
帝国の最後の時代には離反に成功し、その時に奪った神器を使って古代帝国を滅ぼしている。
そして、今度は生き残った人々を自分達に隷属させ、欲望の限りに暴虐を繰り広げた。
ときには【十三人】を崇める聖典を書かせ、『神』と崇めさせるようなことも行った。
その最後には、『プロメテウス計画』と呼ばれる行動を起こし、世界の管理者である【聖霊】へと戦いを挑んで敗れ去り、異世界へと追放された。
なお、【聖典教会】においては、裏の教義で守護聖人とされている。
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【悪邪】
元は、【十三人の奴隷】が追放された異世界に満ちていた、地球にもヨハンの世界にも無いエネルギーだった。
それが【十三人の奴隷】の影響によって、仮初の個が生まれ、分かたれた状態になった存在。【十三人の奴隷】が持つ、人類への深い憎悪を持っている。
【十三人の奴隷】それぞれによって、その領域は区分されており、人格も主たる【十三人の奴隷】をなぞったものとなっている。
召喚には必ず『人の生贄』が要る。最下級の悪邪でさえ、数百人単位の数を必要とする。
召喚され受肉した個体は、生贄の特性を受け継ぐこともある。
なお、記憶と経験を共有してはいるが、あまり活用されてはいない。なぜなら、それは『個』となる事を妨げるものであるからである。
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【虚栄に連なる首切り鎌 キニュキュラ】
主である【虚栄】の名を、その名の一部に冠する上位個体。
絶対的なステルス能力を持つ。
姿形も臭いも気配も、魔力反応すら無なくすことができる。
能力を発動させたキニュキュラは、どんな探知能力を駆使しても(例えば地球の現代科学技術や、ヨハンの世界の様々な技術を用いても)見つける事はできない。
武器は左右の大鎌と、超級魔法以上の破壊力を持つブレス。
尾から出るハリガネムシ状のものは卵管であり、百キロメートル先まで伸ばす事が可能。攻撃と同時に卵を産み付け、敵を自身の分身や眷属を作るための苗床にすることができる。
悪邪固有の魔力(生贄の魔力が、悪邪の世界の力と交わって変質したもの)を纏っており、防御力は非常に高い。
これによって、超級魔法を使ってさえも、キニュキュラを傷付けるのは困難を極める(核の直撃にさえほぼ無傷)。
キニュキュラを察知するには、運命魔法の予知のごり押ししか手は無い。それによって消耗した状態で、キニュキュラ本体と戦う余力はあるのか、という問題が生じる(運命魔法の効果は、使用者だけにその効果を及ぼす。他者に伝えた時点で、その魔法の効果は激減する)。
ヨハンは単独で討伐できたが、これはキニュキュラにとって、ヨハンが最悪の相手だったという話である。