夏休みはまだ終わらない~月乃編~
今年の夏は例年より暑いらしい夏休み。
私は、ドレスを身にまとっていた。今日は父の友人が開くパーティに参加するためだ。他にもいろんな著名人が来るらしい。社交術は私だって完璧に身に着けている。
だがしかし、こういうのは面倒だといつも思う。
「異世界の貴族かっての。こういう堅苦しいパーティより誕生日パーティとかのほうが気楽でいいわね」
そういうと使用人が微笑んだ。
「じゃ、行ってくるわ。気があまり乗らないけど」
パーティの始まりだ。
グラスを片手に談笑する大人たち。
私は壁際のテーブルに立ち、お嬢様友達と笑いあいながら話していた。私と同じ面倒だよねっていうことを想う人は結構いるらしく、この人たちはそういう私と同じ面倒なタイプの人だった。
面倒じゃないと思う人は必死に同年代の男性に声をかけている。
「こういうの、本当は参加したくないのよね」
「わかるわー。料理はおいしいけど、緊張とかで味がわからないのよ」
「それに、父が知り合いだとしても私たちが知らないと何も盛り上がりませんもんね」
と、猛烈にアプローチをくわえるお嬢様とそれに困った様子の御曹司さんを見ながら、私はオレンジジュースを飲んだ。
アプローチされてるのは飯田建設の飯田さんだ。家のリフォーム、建設を手掛けていて、仕事の丁寧ぶりがとてもいいと噂だ。
「それにしても月乃様はもう夏休みですか?」
「ええ。あなたたちもじゃない?」
「はい。でも、暑くて夏休みなのに何もする気が起きなくて」
「わかるわぁ。ここまで暑いとなにもしたくなくなるわよね」
暑いのはとても嫌だというか。冬が好きだやっぱり。この街では雪は降らないが、雪が降る北海道なんかに行ってスキーなんていうのが楽しい。
白露ならきっとこの暑さをものともしてないんだろうけど。パン子は……溶けてるな。多分。
「でも、やっぱり二人と遊びたいわねぇ。こう、やっぱり二人といると落ち着くわ」
「二人とは?」
「私の親友よ。頭が切れるのと、スポーツ少女」
「親友さん!」
「このつまらないパーティよりあの子たちと遊んでいたいわね」
社交はやるべきことだからやるんだけど。
すると、背後から「失礼」という声をかけられ、振り向くと、超絶美形な御曹司がそこに立っていた。黒いタキシード。
美形によく似合ってるな。
「月乃嬢。私と共に今度の日曜日バラを見に行きませんか?」
「いえ、結構ですわ。私、バラより百合のほうが好きなんですの。腐ってませんの」
「くさ……?」
「ともかく、デートはお断りします。今は付き合うとかそんなことはどうでもいいので」
私がにっこり微笑むと彼はとぼとぼと去っていった。
夏休みはまだ終わらない――




