悪の慟哭は悪には聞こえない
私は別荘に帰ってくると美作さんが申し訳なさそうにしていた。
私は手に持っていた荷物を置いてくるように言って、私はコンピュータルームにやってくる。
「あ、あの…月乃さんたちは遊びに…」
「わかったよ…。んじゃ、早速」
私は録音していたデータをパソコンに保存し、そしてUSBにコピーした。
「ゆ、夢野さんはなにを…?」
「ん? 爆弾作り?」
「なっ…」
爆弾は爆発させなくちゃ意味がない。
ま、後悔するがいいさ。私はある場所にUSBメモリを持っていくのだった。
ある場所というのは、役場だった。
月乃が役場のアナウンス部屋を借りる。マイクが置いてあり、私は月乃にUSBを手渡した。
先程公衆電話で指示を出しておいた。
「ここまで大掛かりに…」
「いいのいいの。派手にやった方が面白いでしょ?」
「もう…」
月乃はため息をついて、マイクの電源を入れた。
☆ ★ ☆ ★
島のアナウンスが鳴り響く。
『みなさーん、ごちゅうもーく!』
女性の声が聞こえてきた。
美園が通う高校でも、部活の手が止まり、みんなアナウンスに声を傾けている。
『地震とかそんなじゃないですよ! ただ、悲しいお知らせがございまして〜』
島民はただただ頭に?が浮かぶばかりだった。
『美作 耕作、美作 明美、美作 美園…。君たちは自分の姉をいじめてそんな楽しかったかい?』
突如呼ばれた自分の名前。
美園が所属する美術部の部員は美園に視線がいく。美園は焦ったような顔をしていた。
青空の父親が通う会社も、耕作をじっと見ている。
『わ、私は美作 青空さんに暴力を振るった最低男です! ごめんなさい!
その妹の美園さんとも付き合ってました。美園さんの親と協力して青空さんを自殺にまで追い込みました!』
美園さんの元彼である篠崎 遼太郎の声が流れる。
二人に向けられる視線はとても痛いものに変わっていく。
「み、みんな! こんなの気にしちゃダメだよ! どこの誰のイタズラかわからないけどさぁ!」
「お、俺見たんだ! 青空さんが海の方に向かっていくの!」
「なっ…!」
「止めようと思って話しかけたけど俺のことに気付いてないくらい目がやばくてさ…気づかないまま行っちゃったんだ…!」
「なに?自殺しようとしたのはマジなの?」
クラスでも騒ぎになっていた。
「えー、美作さん。少し来てもらえるかな」
「せ、せんせーも気にしてんの!? イタズラです! 私とお姉ちゃんは仲がいいんです!」
美園は暴れたが、先生に連れて行かれてしまった。
美園が出て行った今も、全員ポカンとしている。
『これは実際に彼氏の方に聞きました! 美園さんは姉の彼氏である篠崎 遼太郎くんと一緒に姉に暴力を振るい、バイト代を奪っていたそうですよ。酷いと思いませんか? また、そのことは親も知っているみたいでしたが美園さんが可愛くて仕方なかったんでしょうねぇ。見て見ぬ振り、二人が別れたと聞くと実の娘に期待してなかったと言い放つんです! こういう親が増えるからこそ、子供はグレていくんですよねぇ』
耕作の方も、仕事の手が止まっていた。
「耕作くん。今の話は本当か?」
「で、出任せでしょう! 悪質なイタズラだ! 警察に行って…」
「イタズラなんすかね? 俺、昨日青空ちゃんと会話した時家出した、と言ってました。喧嘩でもしたのかい?っていうと喧嘩じゃなくて…と。家出する理由ってなんすか?」
「なっ…」
周りの社員の目が厳しくなる。
「こんなこというのもなんすけど、家出した時ちゃんと娘さんの顔みたんすか? 俺でもわかるくらいには追い詰められてたっす。俺の家に来るかと言っても拒否されたし…」
「そういや、私青空ちゃんと会っても妹さんのような可愛い服着てるの見たことないかも…」
耕作は立ち上がる。
自分のピンチを悟っているんだろうか。だが、外のアナウンスの声は余計に厳しくなっていく。
まるで政治家の演説のような感じだった声が…。
『自殺まで考えさせるんじゃねえよ、クソ親子』
という低い声が聞こえ、その場にへたり込む。
『青空さんなんだけどな、元彼の家に引き取られるかもしれない。元彼の両親だけはひっじょーに良い人で誠心誠意罪を償おうとしている。が、多分美作親子はきっと出任せだなんだって喚いてるでしょ? みっともない』
馬鹿にするような言葉を前にしても、なにも反応できなかった。
耕作の頭の中には、もう未来もなにもなかった。
「美作くん…。君はもう帰りたまえ。事実関係が判明してから追って処分を下す。それまで謹慎していたまえ」
課長が告げたのだった。




