希望もない夏休み
とりあえず町のほうにきて、美作という表札がかかげられた家の前に立つ。
扉が開かれ、高校の制服を着た女子高生とスーツ姿の男性が出てくる。お母さんらしき人が見送っている。
「それでねーパパー」
「そうかいそうかい」
あれは妹とみて間違いないだろう。
きっと妹を溺愛しているがために必要なかったと言い放ったんだ。私は通行人のふりをして通り過ぎる。
妹も妹で性格悪そうだなぁ…。
私は妹の方をつけていると、妹が男と合流していた。
「よう、美園」
「おはよう、篠崎くん」
彼氏、彼女か?
「まったく、お姉ちゃんも馬鹿だよねぇ。私と付き合ってるって気づけなくてさー。金づるとしては最高だったでしょ? バイトしてるから」
「ああ、そうだなぁ」
なるほど、元彼氏か。
名前は篠崎。私は一応顔をカメラで撮っておいた。報復ねぇ。どうせなら心折れるまでやってやりたいが…。
どうすっかなぁ。寝取るか。
私は近くの服屋でおしゃれなコーディネートをし、公衆トイレで綺麗に見せるようにメイクをしていた。
悪いが名前は月乃の名前を借りる。あの男は金づるとしてもほしいんだろう。なら、えさをぶら下げてやるさ。
私は公衆トイレから出て、篠崎という男の元に向かう。
篠崎はベンチに座って美園と会話しており、ちょっとトイレといってこちらに向かってきた。あの位置からは公衆トイレが見えないので、公衆トイレの前でわざと篠崎にぶつかった。
「ちっ、あぶねーなぁ」
といって、男子トイレに入ろうとしていたところを私は引き留める。
「す、すいません! お怪我はありませんか!?」
「し、してねえ、けど…」
「私の不注意で申し訳ございません! 怪我していたら困るので病院に行ってください!」
「いや、そんな大げさな…。こっちも悪かった。じゃあな」
「あ、いや、待ってください! そ、その…」
「なんだよ」
「あ、ひ、一目ぼれしました! 付き合ってください!」
と、告白をした。
携帯がないのが辛い。携帯があったら連絡先交換して仲良くなってからって言うのに…。くそ、携帯を落としたせいだ。
私は心でそう悔やみながらも、目の前の篠崎の様子をうかがう。
「あー、えっと」
「あなたのためならなんでもします! あ! わ、私の名前を言ってませんでしたねっ…。阿久津 月乃ですっ…!」
「阿久津って、あの?」
「はい…。想像してる阿久津だと思います…」
「…わかった。付き合おう!」
ちょろい。金の力はやっぱり人を惹きつける。
「ほんとですか!? ありがとうございます!」
「じゃ、じゃあ俺連れがいるからちょっと断って…」
「お連れさんにもあいたいです! 彼氏だって自慢したくて!」
「えっ、あっ、いや…」
私は無理やり篠崎の手を引っ張る。
ベンチに座っている美園の前に私たちは姿を現した。美園は携帯をいじっており、遅かったじゃないと言いかけたところで私の姿が目に入ったようだ。
「誰よその女」
「…すまない。別れてくれ」
「はぁ?」
「…もしかして彼女さんだったんですか?」
私は腕を引っ張り、そう尋ねるとああと答える。
「ちょっと、あんた、人様の彼氏を…!」
「奪ったってことですか? 違いますよ。あなたが魅力ないからフラれたんです。そうですよね? 篠崎さん」
「そういうことだ。所詮、お前もあいつの妹だってことだ」
「ぐううううう!」
妹は泣きながら帰っていった。
さて、こっからが本番です。




