魔王という概念の考察
ワグマたちと街を観光しているとすっかり時間が遅くなってしまう。
もうそんなに時間が経ったのかと思いつつ、現実のほうの時間を見てみると夜の九時だった。ワグマは勉強するから落ちるといってログアウトしていく。
ビャクロも夜のランニングに出かけてくるといってログアウトした。
私? しないよ。
まだやることはあるからね。
私は、その足で図書館に向かった。
地図で場所を確認しておいたんだよ。もともと、いつかは図書館に行く予定だったから。目的は情報を集めるため。この世界の常識とか、土地とか周辺国、その他もろもろを調べるために。
情報はいつの時代も必要なものだしね。
「あら、もう閉館の時間よお嬢ちゃん」
「え、そうなのですか?」
閉館の時間あるのかよ。
いや、24時間やってるわけじゃないよな。コンビニじゃあるまいし。
「なら数冊本を借りてもよろしいですか?」
「いいわよ」
「やったぁ」
司書さん?らしき人がそういうので、私はとりあえずこの国の歴史などを描いた本を探すことにした。文字は日本語で普通に描かれているために読める。だから大丈夫なんだけど……。
結構あるな。建国の歴史。これ全部読んでいたらきりがないぞ。毎日足繁く通うことになるな。それはそれで面倒だし、レベル上げも並行してやらないといけないから時間がないし。
しょうがない。
「絵本で我慢しますか」
私は、近くにあった「ゆうしゃさまのくにづくり」という本をとった。
絵本も馬鹿にできない。桃太郎とか、そういった作り話もあるけれど、伝承をもとにして作られたり、史実に基づいて作る場合もある。
なぜ絵本を選びたくなかったのか。それは考察する手間が増えるからだ。
もちろん改変されている過去もあるし、必ずしも史実をもとにしているとは限らない。
それを見極めて、本来は建国の歴史と照らし合わせて考えるのが一番なんだろうけどさ……。面倒くさいんだよこの量……。
「まぁ、このタイトルでなんとなくわかることもあるけれどさ……」
この物語が嘘でも一つわかるものがある。
この世界に、悪という概念があるということ。いや、魔王というものに限りなく近い存在の概念が既に存在していること。勇者という単語で考察は可能だな。
魔王が存在している……いや、していたのならそれはどこにあったのか。
可能ならそこを私たちの活動拠点にするのもありだ。
ただ、同時に一つの可能性も芽生えている。
魔王が生きているのなら、話は別なんだけど……。ただ、ただなぁ。この物語が本当なのだとしたら、少し話が違うかもしれない。
この物語が本当に起きたことなのだとしたら。国王は勇者。いや、勇者の末裔ということになるだろう。勇者がなぜ国づくりをするのか。というか、国づくりする余裕があるのか。それは簡単。魔王を討ち取ったからだ。
だとすると、話は変わる。
人間が魔王領とかいう土地を見過ごさないわけがないからだ。でも、国づくりってどうするのが一番いいのか。
魔王を殺した後ならば、簡単だ。魔王国を乗っ取ればいい。
つまり、この国自体が魔王国だった、っていう可能性もなくはない。
だから、私が先ほど考えた魔王国をそのまま使っちゃえば?という考えはワグマの意向に沿わなくなるのだ。
ワグマは国を乗っ取るのをよしとしない。
魔王が生きてたら魔王国で功績をあげて魔王に上り詰めればいいと思ってたんだけどな。
「国づくりハードすぎるだろ」
いや、楽にできるとは思っていなかった。
ただ、作るとなるとどうしてもワグマの意向に沿わなくなってしまう。ワグマが甘ちゃんだから、国づくりの本質を理解してないからもある。けど、私は友人の意向に沿ってあげたい。
「もっと別の近道を探しますか……」
私は、ゆうしゃのくにづくりをそのまま借りて、図書館を後にして、そのままログアウトしたのだった。