名前が決まった
妊娠した叔母さんの子ども…。叔母さんたちとしては念願の長女になるが私とはあまり血のつながりがない妹…。
「あー、クソっ」
図書館で紙に名前の候補を書き連ねていた。
うーん、何がいいんだろう。蒼とかそんな適当な名前つけたくないしな…。夢野という名字と合うような名前…。
「くうう、思いつかねえ」
私は頭を抱えた。
いつも正解がどこかしらにある問題しか解いてこなかった。正解がないというのも解いていた。が、これは難しい。正解はない、かつ間違いがありまくるというものだからだ。
名は一生を背負う。
数学などは間違えたら解き直せばいいが、名前は解き直しは不可能に近い。
夢野…夢野 与針とかはかっこいいが字面が針を与えるだもんな。却下だ却下。
私が紙を目の前に頭を悩ませていると。
「あれ?パン子さん」
「久しぶりですね!パン子さん」
甲地と有栖川さんが来ていたのだった。
有栖川さんもそう言えば別のクラスか。二組だったかな。二組は成績はいいほうだ。
「何悩んでるんですか?」
と、尋ねてくるので私は紙を持ち上げて見せる。
「妹の名前が決まらんのです!」
お手上げです。
「名前ねー。俺の名前は結構簡単な由来だからそんな悩まなくてもいいんじゃないかな」
「私もですよ! ただ私は寅年だから大河って名前で…」
「俺は死んだ父さんが甲子園までいく球児で俺にも行って欲しいってことだから甲子園の地面に足をつけるよう甲地ってしたらしいけどね。野球やってないから親不孝者だけどさ」
そういう由来が…。
「あまり悩まなくていいと思うよ。名前の意味より名前の愛の方が強いと思うから」
と甲地が私を宥めるかのようにいう。
なんか、ムカつく。ど正論かまされるのが腹立つ。
私は無言で甲地の足をげしげしと蹴った。
「ちょ、痛いって」
「なんで、あんたは、いつもいつも私のムカつくことばっかを…」
「日頃の恨みがたまってるんですね…。武宮くんもドンマイです」
「ちょ、俺何もしてないけどっ…」
私は蹴るのをやめ、椅子に座る。
悩んでいたのがアホらし…。愛、愛ねえ。愛というのはわからない。が、妹か。叔母さん美人だしきっと美人に育つんだろうなー。
「少納言とか?」
「それは流石に…」
「冗談だって。そんな昔みたいな名前つけないよ」
そうだなあ。
「夢野 ウツツとか?」
「うーん、それでもいいとは思いますけど…」
「キラキラネームに見えなくも…」
「だよね」
昨日二人にも反対された。
やっぱだめかぁ。
「幻とかは?」
「当て字ではないけど…」
「男っぽい感じがしますね」
だよね。ゲンって呼ばれるのは大体男だし。
「…じゃあ白夢、とか」
「いいですね! はぐくむって感じがします」
「いいと思うよ。それがいいよ」
と二人に推されたので名前は白夢になりました。はーちゃんがあだ名になるのかな?
だけど悪夢って読み間違えそうで怖いよね。
私は紙にでっかく白夢と書くのだった。
「ありがとさん! 二人とも! 恩にきるぜ!」
私はそう言って図書室を後にして家に戻ると、誰もいなかった。
書き置きだけがあり、産まれそうなので病院行ってきますという文字が。
私は鍵をまた閉めてチャリにまたがり、病院に向かうのだった。
いつも事態が唐突すぎるんだよ! 私は全力でペダルを漕ぐ。白露ならもっとスピードが出せるんだが私はそんなに出せない。体力がない。
私は近くの病院に到着し、叔父さんを探すと見つかった。
「はぁ…はぁ…。産まれる、んなら、連絡、ちょ…ゲホッゲホッ」
「わ、悪い。俺もパニクってて…」
「ゲホッ、あー、ゲホッ、ゲホッ。こ、呼吸がっ…キツイ…待って、もう無理…」
「だ、大丈夫か!?」
「大丈夫じゃない…。どんだけ全力で自転車転がしてきたって思ってるの…げーっほげっほ」
私は壁に手をついて、息を整えていた。




