姉のコンプレックス ④
休日。私は駅前に来ていた。妙にこちらに視線を感じる。主に男性。
そりゃそうだ。私は今日は可愛く仕上げてきたんだから。もともと地がいいので、クマを隠すメイク程度でどうにかなったりする。それに、服装もイマドキ女子高生のように仕上げてきた。
なので自慢じゃないがめっちゃ可愛いんです。たぶん知らない人が見たら可愛いと思われるだろうし、知ってる人が見ても誰?って思うレベルには別人。
で、なぜ駅前か。お姉ちゃんを迎えに来たからだ。
今日、しょうがないのでお姉ちゃんのコンプレックスを無くしてあげようという余計なお世話を焼きにきた。
と、キャリーバッグを片手に巽さんがやってきた。その隣でお姉ちゃんが俯いている。
こちらに向かって近づいてくる。
「ちょっといいっすか。ここらへんで目の下にすっげえクマがついた女の子いませんでしたか」
と、よりにもよって私に声をかけてきた。
ここはネタバラシをするべきかいたずらをすべきか。流石にいたずらはやめておこう。
「あー、それ私。私が眠ね」
「え、えええ!? 別人じゃないっすか!」
「いや、別人じゃないっての。目の下のクマをメイクで隠しただけ。あとは適当にコーディネートしただけだよ」
私はくるっと回ってみせる。
「似合うっしょ?」
「すげえ…。女って怖え…」
「まあ、この私が可愛いってんだからそのお姉ちゃんも可愛いってもんよ。ね? 巽さん」
「そ、そうっすね。俺は可愛いと思ってるっす」
巽さんが頬を赤くしながらそういった。
お姉ちゃんは未だに暗い顔のままだ。私が言ったことまだ気にしてるらしい。ちょっと申し訳ない気がする。
だがしかし、暗い顔をしてればいいってもんじゃない。
「なに私のお姉ちゃんがそこまで暗くなってんだよ! もっと明るくなれっての! なにもわかんないんでいいんだって! そのままのお姉ちゃんも巽さんは受け入れてくれてんだから!」
「でも…。私は何もわかってないから…」
「ほんとにね。何もわかってないって意味を考えなよ。何をわかっていないのかは考えてるけど気づかないっしょ? 性格だもの、そりゃ気づかんよ」
「性格?」
「その自分に自信がないってのがダメなんだよ! それが分かってないから何もわかってないって言われんの! お姉ちゃんは可愛いのにどこか卑屈だもん。卑屈になってる女って結構ウザいよ?」
どうせ自分なんかとかそういうのは聞きたくない。そういう女ってちょっとうざい。それは男でも同じだけど。
自分に自信がないのに付き合うって矛盾している気がする。なぜ自分に自信がないのが嫌なのにそれを変える努力をしないのか。努力の方向が違う。
「そうっすよ! もっと自分に自信をもって! 俺はそのほうが今より好きになれる気がするっす!」
「親がいなくなって自分を愛してくれる人がいないって思ってるんでしょ。悲劇のヒロインかよ。お姉ちゃんも悲劇のヒロインなら私だって悲劇のヒロインだっての」
自分が一番不幸とかそんなんはいいんだよ。
自分に自信がないのは仕方ないけど、それをあからさまにするのがウザい。まあ、私は自分に自信が滅茶苦茶あるけどね。
「お姉ちゃん。とりあえず、自信は持てなくていいから、今日はとことん楽しむだけ楽しもっか。ね?」
「え、ええ…」
私はお姉ちゃんに手を差し出す。お姉ちゃんは私の手を取った。




