怪しい福井警部
私は日下部さんに連絡を取り、警察署の中に入れてもらう。
「はあ? 福井警部が穴を開けている犯人かもしれないってか? 証拠は?」
「証拠はない。ただ、違和感を感じた」
「何がおかしかった? おかしな挙動はない気がしたが」
「そうよ。何がおかしかったの?」
と、月乃と白露も私に聞いてくる。
私は違和感があった言葉をもう一度復唱する。
「まあそこまでにしておけ日下部。今は目の前のことだ。この惨劇はひどい。ドラゴンがここまで強力だとは…」
「…それのなにがおかしいんだ?」
「普通だろ」
「…いや、違うのかも。たしかになんか違和感があるわね」
月乃は気づきかけている。
「ドラゴンがここまで強力だとは…という言葉がおかしい?」
「正解。その言葉はドラゴンの強さを体感してないとでない言葉だよね」
「なるほど…。たしかにそこに気づくと一気に不信感は増すわね」
「だ、だがあの人は失踪したことなんてないぞ? 行方不明にすらなってない。異世界に行ったとするなら行方不明になってないのはおかしくないだろうか」
日下部さんの言う事ももっともだ。異世界に行ったとすると行方不明だって騒いでも仕方ない。ただそれは数週間滞在した場合だ。
誰にも言わずに行ったのなら行方不明になるが、あらかじめ言い残して異世界に行ったんだろう。異世界の存在にいち早く気付いていたんだ。
「日下部さん、福井警部が2日か3日休んだことある?」
「一ヶ月前に姪が来るから休む、と言って5日間休みをとっていたがそれぐらいだ」
「その時だね」
「だ、だが仮にその時に異世界に行ってたとしてもどうやって穴を開ける? 福井警部はずっとこの署にいたんだし、時間がない…」
「だから夜がなんのためにあるんだって」
穴を開けるのは夜行われていたのだろう。
人が少ない夜を狙い、穴を開けていた。だから時間は関係ない。ただ穴を開けるだけならば時間はいつでもいいからな。
「福井警部は車で警察署に来ているのか?」
「いや、家が近くにあるから徒歩だ。家には車があるが…」
「なら足があるということでしょ。車を取りに帰るからご近所さんの証言ももしかしたらあるかもしれない。電車がなくても車があるなら近場ならどこにも行ける」
「…本当に、福井警部が犯人、なのか?」
「その可能性が高いってだけで決まりじゃない。証拠も出ないだろうから犯人は現行犯逮捕するしかない」
限りなく黒に近い白だ。まだ黒ではない。証拠がない。
たった一つの間違った言葉だけで推測したに過ぎない。
「だからしばらく私が福井警部を監視しますね」
「そうね。私らだとすぐ気配ばれるし気配を消せるパンドラが最適ね」
「しっぽを掴めよ」
「もちろん。ま、犯人が何か企んでるとしてもその企みがことごとく失敗してるんだから焦らないわけがない。福井警部は日下部さんから異世界という単語が出た時相当焦ったはず。だから近いうちに行動起こすはずだよ。日下部さん、殺されないよう気をつけてねー」
「えっ」
日下部さんは驚いたような顔をした。
「日下部さんが異世界の存在に気づき始めると犯人にとっては面白くないでしょ。魔力を持ってしまっていたらとか考えると尚更快く思ってないはず。最悪の場合始末しようと考えるだろうね…。だから次は日下部さんの家の近くで開くと見た」
「なっ…」
日下部さんの家の近くでゲートが開かれた場合クロとして判断してもいい。
「ま、とりあえず今日の福井警部はどこ?」
「署で書類仕事…だ」
「そう。じゃ…私は気配を消して見張ってまーす」
私は手慣れた暗殺者だ。
気配を完璧に消し、日下部さんと一緒に警察署に行くのだった。




